■ 佐為が帰ってきた 2


「おまえっ!佐為だろっ!なぁっ!佐為だろっ!!」

進藤は、嘆願するような声色で、必死に呼びかけた。

「・・・サイ、って何ですか?」
「っ!!・・・何言ってんだよ!ふざけんのも大概にしろよっ!!」
いまにも掴みかかりそうな進藤を、塔矢はなんとか静止する。
「落ち着け進藤。」
「これが落ち着いてられっかよ!」

ぐるる、と牙を見せる進藤に、は非常に困っていた。
冷静な塔矢は、なんとか状況を把握しようとする。

「あなたの名前は、佐為じゃないんですか?」
「えと・・・、ですが・・・。」

「進藤・・・。人違いなんじゃないのか?」
「なわけねぇっ!俺がっ、俺が見間違えるわけねぇだろっ!」
進藤が佐為に囲碁を教わっていたのなら、こんなに近くにいる人を見間違えるはずはない、と思った。
「じゃぁ・・・、記憶喪失、とかかな?」
「おっ、塔矢あたまいいっ!それだよ!それ!」
二人はなにやら話を進めている。
は話が見えてこなくて戸惑った。

「一体何の話を・・・。」
「おまえっ、どっか頭ぶつけたろっ!?そうだろっ!?」
「それじゃ、伝わらないだろっ!?」
「じゃぁ、何て言えばいいんだよっ。」
「あなたは記憶喪失なんですよ。」
とまくし立てる二人に、はもう何も言葉が見つからない。

「あ〜も〜っ! とにかく佐為っ!おまえこんなところで何してんだよっ!」
の名前は、この二人からすると、『サイ』であるようだ。
自分を指差して確認すると、案の定、二人とも頷いている。
「えっと・・・花見ですけど・・・。」
我ながら馬鹿馬鹿しい質問をした、とヒカルは思った。
塔矢はここまで自信を持って言う進藤に、もう疑念を抱いていない。
記憶喪失だとして、これから先どうするのか、を考えていた。

佐為はふと、何かに気づいたように、。
「えっと・・・、あなたの名前は?」
と訊ねてきた。

進藤は、突然暗い顔になって、俯いた。
進藤は、記憶喪失がどういうことかようやく気づいた。
それは、全てを忘れてしまった、ということを示している。

俺を忘れてしまったんだ・・・。あんなに楽しかった日々を・・・。
思い出にするには濃厚すぎるあの日々を・・・。
事実を突きつけられて、進藤は唇を強く噛み締めた。
悲しくて淋しくてたまらない。
あんなに二人で過ごした日々・・・。
忘れてしまったなんて・・・聞きたくない・・・・。
俺を知らないなんて言葉を聞くのが、恐かった。

「進藤ヒカルです・・・。聞き覚えはありませんか?」
横で、進藤の代わりに塔矢が言う。
「ええ・・・。ない・・ですね・・・。」

進藤は拳を血が滲むほど強く握った。
肩が小刻みに揺れている。
また泣いているのだろうか。
佐為は、そっと手を伸ばすと、ヒカルの頬に触れた。

その瞬間、ヒカルの脳裏に、あるシーンが蘇る。

そうだ・・・、思い出した・・・。
夢の続き・・・。
俺、あのとき、差し伸べられる手を、探して泣いてたんだ・・・。
これ・・・、俺が見たかった夢の続き・・・。
暖かい手がほしかったんだ・・・。

佐為は、優しく涙を拭う。
その手から、体温を感じたヒカルは、バっと手を掴んだ。
「な・・・んで・・触われる・・の・・・?」
唐突にヒカルはそんなことを言い出した。
ヒカルの知っている佐為は、触れる事もできない幽体であったから、違和感を感じたのである。
はじめてヒカルは、佐為が、佐為でないかもしれない、と思った。
ヒカルは、瞳に不安そうな色を浮かばせている。
「生き・・・てるの?死んだんじゃ・・・なかったの?」

「・・・私は死んでませんよ。」
佐為は優しく、ヒカルを諭す。
「じゃぁ・・・夢見てるんだ・・・俺・・。」
「ふふ、夢じゃありませんよ。」
佐為は、安心させるように、ふわりと笑った。
ああ・・・この笑顔は変わらないんだ・・・。
なら・・・それでもう・・・いいや・・・、とヒカルは思った。
俺の事を忘れてしまっていても、おまえが生きてるんなら、それでいい。
まして、人の体に戻ることができたんだ。
こうして、暖かさを感じることができるんだ。

ヒカルは、不思議現象であろうがすんなりと受け止めてしまう、スーパー人種である。
幼い頃に、その身に幽霊をとり憑かせ、毎日同じ時を考えを共有していた経験から、宇宙人だっているかもしれないと思っている。UFOが飛んでたっておかしくないと思う。いたっていいんじゃないか、とさえ思っている。
どんな方法を使って生身の体になったのか、なんて、考えないし必要もない。
あるがままを受け入れる、優しい心の持ち主であり、そして鈍感な男なのだ。

「もっと・・・触ってもいい?」
はじめて感じた佐為の体温。
いつも通り抜けてしまうから。
もっともっと、俺は、実感したい。

佐為は、じりっと後ずさりした。
その様子を見て、塔矢は懸命に、ヒカルの手を留めようとする。

「なんだよ・・。」
と邪魔する塔矢の手を、進藤は睨む。
「彼女がひいてるよ・・。」
「・・・彼女?」

ヒカルは、はっと気づいたように、佐為を見やる。
佐為は不審そうな目をしていた。
髪が長く、白いワンピースを着ている。
ヒカルは、佐為が得た体が女だとわかって、声を失った。




・・・・続く


とりあえず、ヒカご目当てのゴージャスラーに用意してみたモノ
どうも、行き先、不安です。





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