■ 佐為が帰ってきた 3


「お住まいはどちらですか?」
「家ですか?この辺に住んでますけど。」
「えぇっ!?いつの間にっ?!」
「そんなに驚くことですか?」
「佐為、おまえ、いつからそこに住んでんだよ。」
「・・・・生まれた時からですが・・・。」
はもう、ヒカルから何度も佐為と呼ばれて、慣れてしまっていた。

「生まれたときからって・・・?」
なにかがおかしい。

「進藤。佐為の住んでいるところも知らなかったのか?」
「・・・え〜と・・・」
目を泳がせる進藤を塔矢は不審な目でじっと見つめる。
「だ、だって・・・。」
幽霊がとり憑いててそれが佐為で棋士だった、なんて、言えるかー!
「だって、なんだ?」
しかも女の体ゲットして帰ってきた、なんて、言えるかー?
絶対ぇ、言えねえー!
「なんでもねぇよっ!」
「仲いいんですねぇ・・・。」
羨ましそうに佐為は言う。

「おまえのせいなんだからなっ!」
「私のせい、ですか?」
「そうだよっ!」
「なんでです?」
「・・・・。おまえが・・・そうやってっ!記憶なんて無くすからだっ!!」
「え・・・記憶・・・・?なくしちゃいませんよ?」
「「・・・は?」」
進藤も塔矢も、唖然としている。

「さっき、記憶喪失だとか話してたみたいですけど、誰のことですか?」
進藤も塔矢も、二人して、佐為を指差した。
が佐為だと信じて疑わない。

「ですから、私は佐為という人ではないって何度も言ったじゃないですか。」
「じゃ、じゃぁ、なんで俺にあんなに優しくしたんだよっ!!生きてるって!死んでなんかないって!おまえ、そう言ったじゃないかっ!!」
「ぇ・・・だって、あんまり不安そうにしてたから・・・。捨て猫みたいに。」
ヒカルは顔を真っ赤にしたが、負けずに言い張る。
「じゃ、じゃぁ、おまえの記憶、どっからどこまであるんだよっ!?俺と過ごしたこと覚えてねーんだろっ!?」
「覚えてるもなにも、20年間生きてきた中で、一度もヒカルに会ったことないですよ。それに、前髪だけ金髪な男の子なんて、印象強くて、いくらなんでも忘れられないですよ。」
それを聞いて、塔矢は吹き出して笑った。
前髪だけ金髪ということが、どれだけ不自然なことか。
塔矢はなにげにそれに気づいていたようだ。

腹を抱える塔矢に、進藤は負けじと言い返す。
「と、塔矢、てめーだって、今時、かっぱちゃんだろっ!」
塔矢の辞書に、おかっぱ、という文字は載っていない。
だからこそ、かっぱという川岸の生き物に、反応した。
「なんだとっ!もう一度言ってみろっ!」
「まあまあまあ。二人共、落ち着いて。」

「俺は、落ち着いてるよっ!」
「だいたい、佐為が謎の人物だったのが責任でしょう!?」
二人の衝突の矛先は、佐為という人物に向けられた。

「そうだよ!大体、佐為がいきなり消えるから悪ぃんだ!」
「僕達はあなたに振り回されたんだ!」
「そうだ!佐為がわがままなのが悪ぃんだ!」
「僕達だけじゃない!もう国際的に発展してるんだ!佐為の名前を知らない者なんて、世界中のどこを探したって見つからない!」
「そうだそうだ!佐為のこと、隠すの毎日辛かったんだぞ!おまえが毎日毎日囲碁囲碁囲碁って騒ぐから大変な目に合ったんだ!」
「本因坊秀策の碁を打ったりなんかして、僕は混乱させられた!」
「おまえが昔、秀策の名前なんて使うからいけないんだ!佐為で打ってりゃよかったのに!」
「・・・ぇ?」
塔矢は何かがおかしい、と気が付いた。
進藤は、勢いに任せて、思いのたけを吐き出した。
「だいたい何だよ!400年も幽霊やりやがって、俺に憑いたと思ったら、こいつと打ちやがって!!だからこいつに追いかけられるハメになったんだぞ!!」
「・・・ぇ?」
塔矢は、なんだその話は、と現実離れした話に耳を疑っている。
「おまえの姿、俺以外に誰も見ることできないから、疑われたりしてさ!緒方先生なんかマジしつこくて大変だったんだぞ!」
パニックに陥ったヒカルは、塔矢の存在を忘れて、佐為に思いのたけをぶつける。
本気でそう思っているわけじゃないのに、どうしても言いたくてたまらなかった。

段々我慢の限界にきていたは、一喝した。
「あのですね!私はさっきから人違いだって言ってるでしょう!?佐為に会ったのっていつなんです!?」
人違いなわけがない。
その言葉遣いも、その怒り方も、佐為、なんだ。
「小6ん時・・・。」
ヒカルは、どんな小さな事でもいいから、思い出してほしい、と願った。
「それなら私も小6か中1でしょうよ!ちゃんと覚えてますよ。」
「・・・ぇ・・・?」
目の前の佐為の体に小6の記憶があるとするなら、目の前の佐為は、佐為でないということになる。

「あたりまえでしょう!私だって、あなたたちと同年代なんだから。400歳に見えますか!?幽霊じゃないですよ!」
「・・・ほんとに・・・人違いなのか・・・?」
「だいたい、囲碁に秀策に400年の幽霊ってなんですか!」
ヒカルは、希望の光が消えてしまったと思った。
佐為じゃないんだ・・・。
その結論は、ひどく心を萎えさせる。

だが、落ち込んでいる暇もなく、塔矢が割り込んできた。
「・・・進藤・・・・。」
「・・・なんだよっ。」
「進藤・・・・・・佐為は400年生きた幽霊で、秀策でもあって、その霊にとり憑かれてたっていうのか?」
「・・・・・・ぅっ。」
言葉に詰まった進藤に、塔矢は容赦なく叩き伏せる。

「ふーざーけーるーなーあー!!!」
怒髪天とは、こういうことを言うのだろう。
一本一本の髪の毛に、精気が宿り、そこからオーラが出ているような気がした。
「うっせぇ!ほんとのことなんだからしょーがないだろっ!!」
進藤も、塔矢の妖気と静電気が起きたように、髪が逆立つ。
「っ信じられるもんか!!そんな嘘くさい話!」
信じられはしないし、納得もできないが、もしそうであれば全てのつじつまが合う、という答えに塔矢は辿り着いてはいた。
だが、どうしても、進藤への対抗心が、その答えを受け入れるのを拒否させる。
「俺だって信じられねーよ!でも現実はそうなんだっ!」

進藤が、佐為だ、と思ったきっかけは何だった・・・?
はじめて打ったとき、二度目、打ったとき、彼は本当に強かった。手が届かないくらいに、強くて、そして僕は彼を恐れた。だから、心を奮わせて立ち向かったんだ。あれが、佐為だったとしたら。
彼の強さの謎は、佐為。それと、本因坊秀策。
佐為の中に進藤がいた。進藤の中に佐為がいた。
それは一体どういうことだ!?

「浄化したと思ったら、目の前に現れるなんてっ!」
佐為じゃないなんて、言わせない。
進藤は、痛いほど、真剣で、心が泣き叫んでいる。
その瞳に、偽りは、ない。
「進藤っ!!佐為が、秀策だったんだなっ!?本当だなっ!?」
「だから本当のことしゃべってんだろっ!」
僕が裏切られた、と感じたのは、彼の出発点だとしたら。
だけど、彼は今、僕と、対等な碁を打っている。
進藤は進藤だ。他の何者でもない。そう僕は、進藤に言ったはずだ。
君の碁が、君の全てだ、と。
だけどっ、だけどっ!
塔矢の気持ちを、進藤は代弁した。
「俺、わかんねーよ・・・。なんなんだよ。」

「この人が佐為かどうか、確かめるっ!」
「な、なに言ってんだよ、塔矢。どやって確かめんだよ。」
確かめると言ったって、・・・化けの皮でもはがすつもりか?
一応、佐為は、今、女なんだぞ?洋服を引ん剥くのは、ダメだぞ塔矢っ!
とか心の内でぼやきながら、青年男子が女の体に興味がない、はずもなく。
ちょっとだけ見てみたいような気もして。
ちょっとだけ・・、と一瞬迷ったりした。

前からうっすらとは考えてはいたが、ここにきてそれをようやく決断する。
進藤と佐為はやはり別人だ。
進藤は進藤で、佐為は佐為だ。
君の碁が、君の全て・・・。
ならば・・・。
「碁を打てばわかるはずだ!」
「そっか!碁盤出そうぜ!俺んち行く?それともおまえんとこの碁会所か!?」
「どこでもいい、近くの碁会所を借りよう!」
「じゃ急ごうぜ!」
「僕は、あなたに勝負を挑みます!」
「俺が先だからな!」

「・・・・・・・。」
完全に頭のおかしい二人に、もはや何も言えない・・・いや、言いたくないれもんである。

「そこまで来てもらいますよ!」
「嫌だとは言わせないかんな!」

「・・・・・・付き合いきれません・・・。」

「佐為っ、逃げるんですか!?」
「ダメだぞ。おまえが佐為かどうか確かめるんだから。」
は深いため息をついた。

「・・・・・・あの。」
「なんですか!?」
「なんだよっ、佐為っ!」
「囲碁、打ったことありません。」

ひゅるりいいーと、桜の花が舞った、気がした。




・・・・続くのか?


シリアスではじめたはずなのに、気づけばもうギャグですね
習性っておそろしいです。
残念無念。春よ、さようなら。


ちなみに、この話なら、ヒカルが佐為の謎をアキラに話すきっかけ、としてれもんは納得できます。
一見、不自然のようですが、とても自然な成り行きだとか思えます。



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