■ 佐為が帰ってきた 4


佐為は、今、と名乗っている。

佐為は、その昔、本因坊秀策を名乗っていた。
佐為は、進藤のことも、囲碁のことも、すべて忘れてしまっていて。
別人だ、とは言ったのだけれど、進藤はそれを譲ろうとはしなかった。
「そんなの認めない!」
それだけ、進藤と佐為の間は、強い繋がりがあったのだ。

進藤は、佐為のことを、はじめから最後まで、塔矢に告白した。
塔矢に、佐為との関係を、次々と並べていった。
一度も経験したことがなかったから、にわかには信じられない話だったけれど。
塔矢が関わってきた佐為のことも、わかるまで、きちんと説明した。
「塔矢には見えなかったけど、ずっと俺の傍にいたんだ。」
進藤の目は嘘を言っているようには見えなくて、今まで隠しつづけてきた事を、全部吐き出したことで少しだけ楽になった、とそう笑った。

はじめからさいごまで話し終えるのに、多くの時間を要した
僕達は喫茶店を出てからずっと外にいて、体が冷え切っていた

「もう帰らなければ。」

進藤はひどくうろたえて、なんとか引き止めようとしていた。
毎日一緒に過ごしていたから、佐為に帰る家がある、ということを聞くと、これからは一緒にいられない、という現実に狼狽したようだ。




進藤は次の日、連絡がとれなかった。
どこに行ったのかは、見当はついている。
佐為に会いに行ったのだろう。

しかし、佐為の連絡先を僕らは聞いていない。
それに気づいたのは、家に帰ってからだった。
まさか、進藤は、あてもなく探し歩いているのだろうか。
進藤が初段のころ、大手合を休み続けたために、叱咤しに行ったことがある。
あの時の、『囲碁やめる』と泣きそうな顔で言った進藤の辛辣な表情が思い起こされた。
それから、僕が、大きな壁としてぶつかった佐為を、がむしゃらに追いかけた頃を思い出す。
どうしても追いかけたくて、なのに、どうしても捕まらなくて。
捕まえた気がしたのに、この手から、するりと抜けていってしまって。
余韻だけが、この胸に残った。
僕はまた、同じ過ちを繰り返そうとしているのではないだろうか。
今なら進藤のあのときの気持ちが痛いほどわかった。
僕は、佐為を今度こそ捕まえてやる、という一心で走り出した。




進藤は、佐為が消えた日のことを思い出していた。
佐為がいそうなところ。遠くまで足を運んだ。
だけど、いなくて。
思いだしたら、涙が出そうになった。
俺・・・、こんなに涙脆かったっけ・・・。
涙腺が弱くなってるだけだ、と自分にいいきかす。

この辺に住んでるって言ったのに、全然見つかる気配がない。
、という表札を見て、チャイムを鳴らした。
だけど、出てきた人は、困ったような顔をしていて、そんな人はうちにはいない、と軽くあしらわれた。
もしかしたら、このまま見つからないんじゃないか、と思うと、とても悔しくて悲しかった。
こんなことなら、昨日、帰すんじゃなかった・・・、と後悔した。

「進藤っ!」
ひどく疲れた顔で、肩を落として徘徊している進藤を、塔矢はかけずり回って発見した。
「塔矢・・・。」
「どうせ、こんなことだろうと思ったよ。佐為に会いたいんだろう?」
「おまえ・・・。どうして・・・。」
「僕も同じ気持ちさ。」
進藤は、塔矢の気持ちが同じであると知って、少し驚いた。
佐為を知っている奴が、俺だけじゃないことに気が付いて、嬉しくなった。
「・・・でも・・・見つからねえんだ・・・。また・・・消えちゃったんだ。」
「進藤、諦めるつもりか?僕は、終局するまで諦めないぞ。」
突然の囲碁用語に、一瞬進藤ははっとした。
そうだ。最後まで諦めねぇ。粘ってやるっ。
進藤の瞳に希望の色が戻ってくる。
それは、二人に共通した棋風でもあった。
最後まで、絶対に諦めない。道が開けるまでは、喰らいつく。
隙を絶対に見逃さない。

塔矢は、佐為が今名乗っている名前を思い出して、閃いた。
「こんなところで待ってても、埒があかない。行動あるのみだ。」
「そうだなっ!」








・・・・続いてしまった・・・


増やしたいところがいっぱい・・・まぁいいか、後で(爆)
虎次郎、無視されてますが、お気になさらないように。
ややこしくなるんで、省いてます。





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