■ 佐為が帰ってきた 5


佐為は、今、と名乗っている。

やっぱり、塔矢って頭いい・・・、と進藤は思った。
二人は、二つの隣合わせた公衆電話の個室で、分厚いイエローページをめくっていた。

「そちらにさんとおっしゃる方は、いらっしゃるでしょうか?」
「そんな名前はおりませんけど・・・。」
ツーツーツー。
「そちらにさんとおっしゃる方が、いらっしゃるでしょうか?」
「・・・どちらさまですか?」
「僕は、中学で、同級生だったものなのですが。」
「なにかの間違いじゃない?そんな人いないよ?」
ツーツーツー。

その繰り返し。


嘘八百を並べる塔矢に、進藤は舌を巻いた。
ただ単に「いません。」と言われた時は、注意しなければならない。
今いないのか、そんな名前の人はいないのか。どちらなのかわからない。
不審そうな声色が出たときは、いろいろとこちらのことを聞いてくる
見よう見真似で、いいかげんな言い訳を電話越しの相手に伝える。
大抵が、同級生、という言葉に一応納得してくれる。

塔矢はものすごく頼りがいがあるんだな、と進藤はひそかに思った。
敵に回したらものすごく恐いけど、味方としてはなによりも心強い。
北斗戦を思い出したりした。
あのとき、やっぱり、塔矢は俺達より一回り大きくて、引っ張っていってくれた。
リーダーとして申し分ない、と今なら素直にそう思える。
俺は、こいつを追いかけてきたんだよな・・・。
こいつの強さを何にもわかってなかった頃の俺は、塔矢をどれだけ混乱させただろうか。
塔矢は、今、何を期待しているんだろうか。
俺は、おまえがいてくれたから、囲碁を続けてこられたんだ、と思う。
秀策のことで、頭に血が昇っていた俺は、おまえだけは佐為を知っていると思うと妙に冷静になれた。
佐為の事、どう思ってる?
また、追いかけるのか?
だよな?あいつってば凄ぇもんな?
今度は俺達二人で追いかけようぜ

塔矢は、イエローページのの欄を手で辿る。
目ぇぎらつかせて、何者にも屈しないって感じ。
ある意味、鬼みたいな形相をしている。
・・・なんてこと言ったらまた、ふざけるなって怒鳴られそうだ。
ああっ、そんなに強くボタン押したら、電話壊れるんじゃねぇの?
しかたないか・・・、トラウマだもんな・・・。
佐為のことは、死ぬ間際まで、教えないつもりだった。
だって、佐為は、俺の大事な宝物だもん。
それを教えちゃうなんて、悔しいじゃん。
だけど、塔矢になら、いいかなって気になったんだ。
意外にあっさり信じてくれちゃって、こっちの方が、信じられそうになかった程だ。
だけどこうして秘密を共有する相手ができたのは、本当に嬉しかった。
佐為の存在を知る人がいてくれるのは、佐為の存在を認めてくれる人がいるのは、
佐為の寂しさを、少しは、まぎらわすことができるんじゃないか、と思うんだ。
佐為が一人で抱えた寂しさを、少しは、共有してやれるんじゃないか、と思うんだ。

隣で塔矢の口が動くと、密閉された個室の為にトーンの低くなった塔矢の声がぼやけて聞こえる。
「何ヘラヘラしてるんだ!手を動かせ!」
どこまでやったか、一覧に置かれた手の位置に目を落とす。
こうやって、相談できる相手がいるのは、ありがたいな、と思いながら、進藤は受話器を取った。



電話番号を正確に押したのだが、進藤は相手が出る前に、受話器を置いた。
「いらっしゃるんですね!?」
(――ええ。そのはずですけど。ところで、どちら様でしょうか?)

電話口の相手の声は聞こえないが、塔矢の背中から、緊張感を感じた。

「あっ、す、すいません。ぼ、僕は、塔矢アキラと言いますが。」
(――塔矢さん、ですね。少しお待ちください。・・・・・・)
「お、お願いしますっ。」
(――・・・・・・・・・・・・・。)
受話器の奥で、ドアを開ける音と閉まる音がした。
(――・・・・・・お待たせしてすいませんが、れもんは出かけちゃっています。)
「あのっ、どちらに行かれたかわかりますかっ?」
(――・・・・・・バイトに行っていると思いますが。)
「あのっ、場所の方、教えていただけませんでしょうか。直接会ってお渡ししたい物がありまして。」
(――そうですか。メモの御用意はよろしいですか?)
「あっ、ハイっ!大丈夫ですっ!」
(――○○駅はご存知?駅前に商店街があるんですけど。)
「○○駅前の商店街ですね?」
(――ええ。そこにファーストキッチンというお店があって・・・)
「そのお店で働いてらっしゃるのですか?」
(――いえ。その店の角を奥に入りまして・・・・珈琲専門店にいると思います。)
「お忙しいところ、ありがとうございました。」
(――いえいえ。今度、こちらの方にも是非寄らしてくださいね。フフフ。)

最後の含み笑いは、塔矢の耳には届かなかった。
塔矢はイエローページから一枚を引きちぎると、ドアを開けて、新鮮な空気を吸った。
「どうだった?」
進藤は、輝いた目で、塔矢を覗く。
塔矢は、ちぎったイエローページを見せると、
「行こう。」
と、進藤を促した。

文字は、インクの上に、書かれてあって、非常に読みずらかった。






・・・・続いてる


電話のやりとり無駄に長い・・・
きっと気が急いているのです。(笑)





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