■ 佐為が帰ってきた 6


「いらっしゃいま・・・」
カラコロカラ、と扉の開く音に振り向いたは、いいかけた言葉が止まった。
すがすがしい笑みで、塔矢がいう。
「奇遇ですね。」
・・・そんなわけがない。

ニコニコ笑顔の塔矢の後ろから、ヒカルがうろちょろと、戸惑い顔でこちらを見ている。
二人は地図の通りに、珈琲専門店を探し当てた。
は、ウエイトレスをしていて、つい先日見知った二人が訪れたのを見て驚いた所である。

「お席に御案内いたします。」
客が少ないため、奥の方の落ち着ける席に、二人を案内した。

席につく前に、進藤は、塔矢に耳打ちした。
「俺、・・・コーヒー飲めねぇんだけど・・・。」
進藤の声は、の耳にも届いた。
珈琲専門店に、なにしにきたんだ、とは思う。
進藤が座るのを待つと、は尋ねた。
「コーヒー苦手なんですか?進藤君。」
「俺のことはヒカルって呼んでって言ったじゃん!」
進藤の大きな声に、店の客達が、振り返る。
と塔矢は、懸命に人差し指をたてて、進藤に訴える。
進藤は、瞬間的に、両手で自分の口を塞いだ。
「あ、ごめ・・。俺、いつも佐為にそう呼ばれてたから、違和感、感じるんだ。」
佐為のことは、も聞いた。
昨日の今日で、まだ飲み込めていないけれど、ヒカルと佐為の仲が良さが伺える。
ヒカルはしゅんとなっていた。
その姿は、なんだか可愛らしい。
「・・・ヒカル?」
の声に、進藤が顔を上げる。
「ヒカルはコーヒー苦手なんですね?」
「あ・・・、うん。でもっ、コーヒー牛乳なら飲めるよっ。」
ひどく懐かしいネーミングだ。
それを、大人は、カフェオレという。
「なら、お口に合いそうなのを持ってきますね。」
ヒカルは、安心したようにやっと笑った。
「塔矢くんは、何にします?」
「あっ、僕は何でも平気ですっ。」
言った後で、塔矢は、顔を赤らめた。
「・・・えと・・・」
「塔矢なんて呼び捨てでいいよ。いつもそう言ってたんだから。」
塔矢の向かいで、ヒカルがむくれながら言う。
ヒカルにとって、はあくまで佐為らしい。
ヒカルがどんなに佐為を大事にしていたかが、理解できた。
「塔矢にも、何か合いそうなのを見繕ってきますね。」
「ぇ?・・・おっ、お願いしますっ。」
席を離れたの後姿を、塔矢とヒカルは、じっと見ていた。

他の席へ注文をとりにいく姿を目で追うヒカルと塔矢。
奥に消えると、可笑しそうに、ヒカルは笑った。
「なんか変なの〜。」
「なにがだ、進藤。」
「だからさー。佐為が、こうやって女みたいな格好してて。」
「変か?」
「っていうかさー。なんか、似合うじゃん、みたいな。」
「君は、一体なにが言いたいんだ。」
「えと・・・、佐為はやっぱり男でさ。女だって言われると違和感感じるんだ。 だけどさ、元々、女の格好しててもおかしくないっていうか、そういう雰囲気があってさ。 俺と一緒にいた頃の佐為に、女服着せるだろ?そしたら想像できちゃうっていうか。 ああ・・・こんなんだったんだろうなって。」
懐かしそうに微笑む進藤に、塔矢はなにも言えなかった。

「お待たせしました〜。」
佐為が持ってきた二つのコーヒーは、とてもいい香りがした。
「あったかいの、なの?」
ヒカルは湯気がたっていることに驚く。
「飲んでみればわかりますよ。」
ふふっと笑う佐為にすすめられるがまま、口に運ぶ。
「うわっ、おいし〜。苦くないじゃん。」
「でしょう?ヒカルのは、子供達に人気なんですよ。」
「俺、もう子供じゃねえよっ。」
口を尖らせるヒカル。
困ったような顔をする佐為を見て、
「美味しいなら、いいじゃないか。」
とヒカルの様子を咎める塔矢。
「うん。まぁ。そうだけどさぁ。」
と口篭もるヒカル。
塔矢も口に運んだのを見て、佐為は聞いた。
「塔矢は、どうです?」
「・・・おいしいです。」
塔矢は、なんでか、顔を赤らめた。
佐為のふわりとした笑みに、慣れていない塔矢は、気恥ずかしくなったのだ。

「それはよかった。では、ゆっくりしていってくださいね。」
そう言って、離れようとした佐為を、ヒカルは呼び止めた。
「佐為。バイトって何時に終わんの?」
「えっと・・・・・・あと二時間ほどですかね。」
「じゃさ、そのあとなら、話せる?今、忙しそうだから。」
「ええ、いいですけど。なにかあるんですか?それに、随分お待たせしてしまいますよ?」
「そんなの平気だよ。」
「僕達、あなたに会いに来たんです。」
塔矢の言葉に、ヒカルが頷いている。

他の席から、ヒュウ、やるじゃん、という囃し声が上がる。
三人ともそれを同時に一瞥すると、静かになった。




「それで、二時間もどうする気だ?」
「だから平気だって。持ってきたもん。マグネット版。」
「それで時間を潰す気か?」
「だって、俺ら、あんま話すことねぇじゃん。」
といって、本当に取り出した、マグネット囲碁。
「13路で悪ぃけど、気分転換しようぜ。」
進藤と塔矢は、囲碁繋がりで、全くといっていいほど、他の話をしたことがなかった。

13路対決は、一時間ほどで、あっさりと塔矢の勝利に終わった。
「うわ〜、これでも粘った方なんだけどなー。強ぇや、おまえ。」
君が弱いんだ、といつもの塔矢なら言っただろう。
けれど、それを言わなかったのは、ここが碁会所じゃないということと、19路盤ではないから気軽に打てるということ。
それに、時折、こちらを見る佐為が気になっていたからである。
「進藤。13路でやるのは、はじめてなんじゃないのか?」
「あ、わかる?」
塔矢は幼い頃から碁に触れてきたので、六路盤、九路盤、十三路盤と、すべての工程を経て、十九路盤に至っている。
進藤は、いきなり19路盤でやってきたようだ。
「佐為の教え方って、凄いんだな。」
「あ?凄いなんてもんじゃねえよ。スパルタだよスパルタ。完っ全に、容赦なし。」
塔矢は、佐為のスパルタぶりを想像した。
温和そうに見える彼女が、どう変身するのだろう。
「フフッ、そうか。」
その時、進藤は塔矢の子供らしい笑顔を見た。
・・・はじめて見た気がする。
そうでもないかもしれない、と思っても、みたことないような気もする、と考え直した。
佐為が居なくなってから、塔矢が少しだけ柔らかくなった気はしていた。
丁度、北斗杯あたりから。いろいろ倉田さんに気を使ってたよな・・・。
犬猿の仲だったはずなのに、そうでもなくなっていった。
それどころか昔からの親友みたいな感じだった。
でも、囲碁が関わってくると、柔らかさはすぐに鋭さに変わっていった。
塔矢は、進藤と出会う前までは、こうした笑みを絶やさない子供であった。
しかしそれを進藤は知らない。

進藤は、塔矢とこうして囲碁をやっていて、喧嘩が起きないのは初めてだということに気が付いた。
苦手だと思われていたはずの、珈琲の優しい香りに包まれながら、まるで、佐為の魔法にかかっているかのように、感じていた。







・・・・まだ続く


こーゆードリームって詐欺だよね・・。
佐為が可哀想です。
でも、まぁ、チャレンジャーってことで・・。

そういえば、佐為って塔矢アキラの事、何て呼んでたっけ・・・?
行洋のことは、”アノ者”



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