ゆうた 続



裕太の懸命な努力は、確実に実っている
しかし、それは、兄周助をとことんまで無視する形で成り立っていた

うちの女テニにあんなやついたっけ・・・
俺が知らなかっただけかもな、と裕太は思う
結構上手かったよな
最後は惜しかったけど

兄貴ならもちろんあの人を知っているだろう
けれども、それを兄貴に聞くのは、癪である
それに黙ってろって言われたしな

あれが利き腕じゃないのが、さらに惜しいよな
凄ぇ威力かもしれねえのに
またあそこに来ねえかな
時間あれば来るって言ってたしな
練習相手としては申し分ない
怪我どうしたろう
冷やしてっかな

と、裕太は一人勝手に妄想に走っていた


「裕太。」
「・・・・・・。」
「裕太ってば・・・。」
「・・・・・・。」
裕太は、兄の気配に気付いて、背中を向けた
「聞こえてるなら返事しようよ。」
「・・・なんだよ。」
「晩御飯だよ。」
「・・・わかったよ」

あぁ、早く上手くなりてえなぁ
重い体を動かすように、裕太は布団から立ち上がった


裕太は食事中も、チラチラと周助をのぞき見ていた。
「何?」と周助は怪訝な顔で聞くが、そのたびに裕太は「別に」と突っぱねる。
最近、ほとんど会話らしい会話をしていない。
周助は、困ったような顔をすると、肩を竦める。
裕太の視線は何度も周助に向けられ、今日は特に回数が多い。
だが、周助が顔を上げれば、裕太は視線を逸らす。
周助はため息をつき、なるべく何も言わないように心がけた。
だが、見ないふり、というなおざりな対応は、余裕を見せつけられているようで裕太のお気に召さない。
そうさせているのは自分だとわかっていても、裕太は、理不尽な憤りをやめられなかった。

劣等感に苛まれているのは、兄周助のせいではない。
それはわかっている。
わかっているが、兄周助が中学に進んでからというもの、周助は部活と勉強で忙しくなり、二人でテニスをやることもなくなった。
相手をしてくれないことが、ただ、寂しかったのかもしれない。

・・・んなことあるわけねえ!
兄が強いのは、自分の誇りだった。
だが、その強さが自分に向けられなくなったとわかってからは、不愉快でならなかった。
・・・こんなこと言ったら、笑われるのがオチだろうな。
今日、負けた、と明るく言い放った兄に、怒りが生まれた。
実際のところ、手塚ってやつの強さはどのくらいなんだろう。
だが、裕太にとって、見つめる相手は、手塚などではなく、兄周助以外の何者でもない。
それは、兄周助がいつもいつも、すっきりした顔で負けたと言ってきたからであり、負けたという事実はたいした意味を持たなかったからである。
たいした負けじゃないと考えていた。敗北だとは思えない。
裕太が見たいのは、この手で、自分の手で、『兄周助の悔しがる顔を見たい』という気持ちが根底にあった。
裕太というのは、ちょっと人とズレていた。
この点、周助と似ているだろう。
どれもこれも、周助の影響かもしれなかった。
いつもヘラヘラと笑って弟を苛めて楽しんでいる兄周助(裕太ビジョン)に、近づきたくないという気持ちもどこかしらにあるのだが、あえてそれは注目せずにいよう。
ほんのちっちゃな、ちっちゃな『しこり』なだけだから。
と、考えている時点で重傷である。

反抗心はいろいろな方向に向き、裕太の心は、葛藤でせめぎ合う。
だが、結局は、いつもいつも、兄周助に向けるところで落ち着いていた。

・・・・・・俺が何考えてるかなんて、絶っ対っ、言わねえ!
決心はいつも以上に固まっていく。

いつか絶っ対っ!いじめ返してやる!
などと、できそうもないことを考えていたりもするのだった。
重症。それ以上。トラウマである。









は今、とても機嫌が良かった。
久々に満足のいくテニスができた。
右手だろうが、左手だろうが、関係ない。

トップスピンというのは、下から上に大きくラケットを振りぬく。
風を裂く音は、とても気分が良い。
だから余計に、やった気になっていた。

相手は最悪だったし、あれならあのコーチの方がよほど良い相手と言えるだろう。
しかし、それは、が無意識に意識する箍を外すのに好都合な存在だった。
思い切り振りぬけた。
それが、とても嬉しい。

左手首は、まだじわりと痺れている。
迅速な処置のおかげで、赤みも腫れも引き、目立つほどではない。
けれど、たとえ骨が折れていても、今日得たものは、何物にも得がたい貴重な体験だ。

。」
「ん?」
「時間だぞ。」
「ああ、もうそんな時間か。」

よっこらせ、と、は疲弊した重い体を起こす。
しかし、手に力が入らなくて、起き上がれない。

ふと、あの男の言葉を思い出した。
『練習足りひんのやないか?』
その通りだ、と思う。
今日はなんとかプレイを思い出すことができたけれど、やはり、現役から遠ざかっている以上、それはブランクとなって跳ね返ってくることを身に染みた。
体力がないことには気付いてはいたけれど、は腕まで鈍るものだとは思っていなかった。
練習しなくちゃな、せめて今を維持できるくらいには。
でもどこで?

「疲れてるのか?」
そういって国光は左手を差し出した。
は迷わず、右手を出す。
その動作が不自然な事に手塚は気付くが、肝心なことに気付かない。
普通、人というのは、左手を差し出されたら左手を出すことを。

国光は掴んだの右手を引き寄せる。
はダルそうに起き上がると、しょぼしょぼしはじめた目を軽くこすった。

「う・・・ん。そうみたい。」
「食べたら今日は早く寝ろ。」
「そうする〜・・・。」
は、食事の前からアクビをした。


は、食事中も、左手を使わなかった。
少し前に、左手を怪我してから、ずっと使っていなかった。


次の日、国光の部屋の物置から、古ぼけたラケットが忽然と姿を消していた。







あとがき

まとまらなかった・・・
それ以前に何か間違っている気がする(プロット書け!)

読み応えないなぁ、この回(反省・・・
こんな調子でシリアスはまだまだ続く
そろそろ過去ッ。


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