世界で一番信用できない  1


「ねぇ。今、暇?」

もう中学3年生になってしまった。
ことあるごとに学校の先生は受験勉強という単語を繰り返す。
だけど私達受験生は、全然せっぱつまってないし危機感もない。
というのもエスカレーター式で、高校へは楽に進級できるから。
中学で離れ離れの学校になった人達はみんな塾へ行って忙しいみたいで、今では連絡も途絶えてしまった。
私は塾には行っていない。
もともと成績は良かったほうで、1年の時は学年10位以内をキープしていたが、周囲からの羨望の反応に疲れて勉強を怠るようになった。
それに、部活と勉学の両立はなかなか難しいものがあったし、しばらく放っておけば簡単に、ずるずると成績は並になっていった。
それでも部活に熱中することができて満足だった。


声をかけてきたのは、小学生の時に塾が一緒だった
当時、塾の中では一番仲が良かった友人だったが、違う中学に行くのだろうというのは暗黙の了解である。進学塾だったということもあり、私達にしてみればそれはあたりまえのことだった。
しかし、塾での中学合格者一覧での名前が私の名前の隣にあった時には驚いた。
お互いその時はじめて同じ学校を受けたことを知ったから、驚きは2倍だ。
それでも同じ学校に通うことになるとは思いもしなかったらしく、入学式の日にクラス分けで名前を見つけたときには驚きは4倍で、実際顔を合わせた時は、二人とも底なし沼のように笑いが止まらなかった。
これから長い付き合いが待っているかと思うと嬉しかった。
そしてこの人こそが私の親友になるんだろうなと感じていた。
それは直感であり、根拠はどこにもなかった。


一年のときから二人ともバラバラのクラスになってしまって、話す機会も少なくなった。
彼女はずばぬけた明るい性格で、クラスの中心人物になっていった。
一方、私はというと案外寂しがり屋なようで、一緒に盛り上がれないことに多少の不満を持っていたが、仕方のないことなのでなるべく表に出さないように努めていた。
そうこうするうちに、自分のクラスで席の近い女の子が同じ部活に入らないかと勧誘してきた。
その子が指した部活は運動部で人気のある部活だった。
それなりに興味があったし、容易にオーケーを出したのは、もしかしたら寂しさを紛らわせるためだったのかもしれない。
ストレスを発散させるかのように、部活動にあけくれ、知らずのうちになぜか自分もクラスの中心人物的級になってしまっていた。
こんな私が中心人物になってしまうのだから、世の中って不思議だ。
しかも部活でも重宝級になってしまい、先生からも先輩からも信頼されるようになってしまって、もはや推薦された部長の座を辞退するのはとんでもなく無理な状況に陥った。
おかげさまで、あちこちのクラスを股にかけることになり、人気者の異名をとったのか、友達は100人以上に膨れあがっていた。
まぁ学年だけで1500人くらいは裕にいる学校なわけだから、浅く広くといった感じなので、友達というよりも知り合いといった方が正確かもしれない。


それがいいことをもたらすのか悪いことをもたらすのか、たとえ友達100人出来たとしても、親友との距離はますます遠くなる気がしてくる。
それも今ではを親友と呼んでいいのかすら自信がない。
だから、正直、100人も友達いらないから親友をくださいよ、と元旦の願いをしたこともある。



「え?」
突然、から声をかけられ、私は答えられないでいる。
随分とご無沙汰だったお目見えだ。
「今、暇?」
これから部活が・・・、という言葉は自然と飲み込んでいた。
「話があるのよ。」
私が部活の役割上でのクラスに行くことはあっても、が私のところにくることはめったにない。
忘れ物だと叫んで乱入することはままあるが、ちょっとしたやりとりだけで、はまた元のクラスへ飛んでいく。
も私が忙しい身であることは充分わかっているようだ。
「なんかあったの?」
「たまにはゆっくり話そうかと思ってさ。ってゆか、話したいだけなんだけど〜。」
エヘヘと顔をほころばせて照れ隠しのように笑うは、ワクワクしたようなおももちで嬉しそうでさえある。
本当にそうなら嬉しいのだけれど、なぜだか深いためいきをつきたくなった。
「なんか悩みでもあるのかと思ったよ。」
「そうみえる?」
無理して笑っていることもありえる、もしかしたらそうなのかもしれない。
たとえ悩み事がなかったとしても、がくれたチャンスは逃したくはなかった。
「だったら特にないのね。じゃぁ〜部活に行っちゃおっかなぁ〜。」
「!えぇ〜!いっちゃうの〜ぉ??」
大げさな言い回しに苦笑しながらも、
、ちょっとそこで待っててよ。」
そういって私は席を立った。
私を置いてどこに行くのよ薄情者〜と非難の声を背にしながら、
「あー・・・・とにかく荷物見張ってて。」
と傍を離れた


教室を出ようとしたとき、誰かにぶつかりそうになった。
私はもう走る体勢になっていたし、この勢いを殺そうと入り口のドアに腕をひっかけた。
ガシャンと鈍い音が辺りに響き、腕がドアにぶつかり、不安定な体勢はそのまま体がすべるように外へと乗り出す。
体の勢いに負けた私はなんとかドアの端を手で掴み、止まらないかも当たるかも、と感じた瞬間、避けてという祈りを唱える暇もなく目をつむり体を強張らせた。
結局当たりはしなかったが豪快にぶつかりそうになったのは事実であるし、相手をかなり驚かせたのは間違いないだろう。
透明のクリアファイルからプリントがバァサバァサッと音をたてて広がり落ちる。
こっちも豪快に落ちたなぁ〜と落ちた紙をじっと見ていたが、感心している場合でもない。
「あっ、ごめんっっ!」
「ううん。いいよ、それより急いでるんじゃない?」
「平気。」
あわてて謝ってみると、それほど気にしていないような返事が返る。
しかし、悪い事したな、と素直に思った。
とにかく床を見つめたままじゃなくて、拾わなきゃと腰をかがめる。
向こうも広範囲に散らばったファイルを探しはじめる。
よく見ればその相手は同じクラスの不二周助だった。
「・・・・ぁ。」
・・・天下の不二様ダ。
相手を確認したとたん、後ろからの声がかかる。
、行くんなら早く行ってきなさいよ。」
(私がやるから早く行け)
そんな感じだった。
が不二に好意をもっていそうだとなんとなく思ってしまった。
「早く行ってよ。私やっとくから。」
もしやお邪魔なのですかそうなんですね、と声には出さずにの申し出に甘えることにした。
素直に教室をでた私に、がまた声をかける。
「早く帰ってきてよー。」
早くなくていいくせに、と私は一人笑いをこらえ、副部長の元へ向かう。


そういえば不二君、なんであんなところに立っていたんだろう・・・。
ふと疑問が頭をかすめたが、に幸せ時間を提供することを優先し、足取りを遅くした。






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