世界で一番信用できない  11


歌うだけ歌ったらお腹がすいたということになり、レストランへ行くことになった。
「もーちょっと聞きたかったなぁ、ちゃんの歌。」
延長したかったという菊丸に、珍しく素直にマイク渡してたねと不二が笑っている。
「そう?」
「うんうん。最後の曲いい感じでてたし。」
は、誇らしげに口元が上がっている。
みんなが上手かった。誰ひとり臆する人はいなかった。自分はラストだった分、強調されたのだろう。
コンパという席で目立つつもりはなかったから、褒められれば褒められるだけ、他の二人に少し申し訳ない気がした。
しかし、チーちゃんも上手かったと意気まいていて、素直に喜ぶことができた。
メニューを見ながら私は苦笑した。
「おい。」
ふと私に声をかけたのは、いたって無表情な手塚さんだ。
「注文は決まったか?」
やや真剣な顔つきに言わせるセリフではない。
さっきまで、嫌そうな顔をしながらヘッドバンキングに付き合っていたかと思うと、
おかしくて、肩が揺れた。笑っちゃいけない。そう思った私はなんとかこらえた。
「く・・・・ま、待ってね。」
気の抜けた状態のは、メニュー表を見たが、目移りする。
「俺、コレ〜!」
とメニュー表から顔を覗かせた菊丸は、喜びあふれた顔で目を輝かせている。
「うん。僕も決めたよ。」
菊丸の隣で柔らかい声がした。
笑っているが、一日中同じような表情をしているような気がしてならない不二くん。
「決まった人、手あげて。」
とチーちゃんの声に私以外を除いて全員小さく手をあげる。
「うわぁ、待って待って。」
人間観察をしていたからかぼーっとしていて慌てた私に、
「早くしろ。」
と手塚さんから不機嫌そうな顔でダメだしされた。
メニューから残り二択までは決めた。
いつもはこうじゃないんだけど、と唸った。
「う〜ん。だめだ。・・・あ、そうだ不二くん、私とジャンケンしよう。」
「いいけど?」
不二とジャンケンをしだす私に周りは不思議そうな顔で見る。
私が勝ったらこっち、相手が勝ったらあっち、という二択ジャンケンなのだ。
負けた私は、メニューが決まった。
なんとなくわかった意図がわかった不二は聞いた。
「何に決めたの?」
「ジャンバラヤ。」
「あ、同じだね。」
と不二は笑っている。
「そういうのは、自分で決めろ。」
不意に手塚が厳しい顔で言った。
「あ、うん。」
だから私はしごくまともに答えた。
率直に出てきた言葉なのだろうが、横にいたチーちゃんには不評だった。
「え〜、別にいいじゃん。」
とチーちゃんはこそっと反論した。
すると耳がピクっと動いた手塚によるお説教が始まってしまった。
簡単にいえば、自分の事は自分で決めろ、ということだ。もっともな理由だと思う。
人を使って、自分の意志を決定するな、と重ねていう。
選んだ末に問題が発生したとき、その人に迷惑がかかるといいたいらしい。
複雑な言い回しは難解だった。
普段から周りにいる人物は、意図を汲み取りやすい。
菊丸と不二は手塚の言いたい意味をなんなりと理解した。
加えて私もなんとか理解した。私は発生源というか当事者であるし、すんなり浸透した。
親しい人物や当事者以外には、納得しにくいものだ。
無関係な人間には説明されればされるほど、難しくなる。
は、もーなにがなんだかサッパリ、といった風で、
チーちゃんは、よくわからないけどもういいよ、といった風で、
そもそもなんでお説教されているんだろう、と謎が増した。
不穏な雰囲気に飲み込まれないよう、フォローの新風を菊丸は入れる。
「手塚、手塚、それ部長みたい。」
雲行きが怪しくなってきたかのように、手塚は眉をひそめる。
いつもの自分の行動にある問題点を指摘された私は感動していた。
それは思いもよらない観点だ。
私は、嬉しそうに手塚に笑いかけた。
「だって、ほんとに部長だし、ね。」
そういうと、手塚の眉皺は減った・・・かのように見える。
いつも近くにいる人物は、口端が微妙に上がったのに気づいたはずだ。
しかしそれを知らないは、いつもの無表情に戻った気がする、と思った。
不二は笑いかけた。
「深く考えなくていいよ、手塚っていつもこうだから。」
最後の最後で締める役は、不二か、とは思った。
「それに僕なら構わないよ。カモン、二択ジャケンってね。楽しいし。」
キャラ違・・・と思ったせいか、堅苦しい場にはならなかった。
というより、笑いが止まらなくて仕方がなかった。



テーブルに運ばれてきた自分の食事に手をつける。
おいしそうな見かけに違わず、舌もおいしいと感じる。
のだが、ちょっと辛い。運び手はだんだんゆっくりとなった。
同じメニューを頼んだ不二は平然としている。
「・・・・・ぅひゃぁ・・・。・・・あぅ。」
徐々に水を欲しはじめる。
だんだんと辛さは増していき、しまいに唇がヒリヒリしだす。
なんとか射程圏内に収まる辛さだったのに安堵する。
少しも動じない不二を見て、モノ思う。
「不二くんてさ。辛いの好き?」
「うん。そうだね。」
「なになに、それって辛いの?」
「うん。思ってたより、結構辛めだと。」
「僕はもうちょっと辛い方がいいかな。」
「うわぁ。激辛党ですか。」
サラリと言ってのける不二に、今度があったら絶対に同じメニューは避けようと決心する。
だけど涼しそうな顔をしている不二くんを見てると、尊敬。
「かなりつらそうだったが。」
少し心配そうな手塚に、は苦笑する。
「やだな、見てたん?バレてた?いやぁ、水がね、足りないや。」
「いるか?」
手塚は飲みかけのアイスコーヒーをついっと差し出した。3分の1ほど残っている。
備え付けのペーパーで唇を拭いてから、ストロー付きのまま頂いた。
人はこれをイイ雰囲気と呼ぶ。
しかしにとっては喉の渇きを潤すのは切実なことだった。
ストローつきのままかよ、とは内心つっこんだ。
少しは遠慮しろよ、と内心思ったのは、チーちゃんである。
菊丸は、あぁ間接キス!?いや、だけど、あっ、それ欲しい!と悶えていた。
手塚は関心がない。それどころかさきほどのお説教の続きだ。
「人のせいにはするなよ。」
「わかってるよ〜。不二のせいなんて絶対言わないから。」
不二はその様子を眺めていた。
「そういえばさんと手塚って知り合いなんだよね・・・」
ニッコリとしている不二の笑顔の裏に、「手塚との関係は?」、という質問を本能でされている。
知らず、返答を返してしまう。
それは反応というものだ。
見てはいけないものを見てしまったかのように思えて動揺する。
それゆえ、意味も通じず語尾は怪しい。
「手塚さんは会長さんだから・・・?」
その前に、普通の会話をしたりするのは、今日がはじめてだ。
部長会で、会長とは何度か顔を合わせる。
書類上の問題とか、いろいろやりとりをしたことがある、というだけだ。
昨日まで名前もほとんど知らなかった。いや、知ってはいたが覚えていないだけだ。
会長、としか呼ばないからだ。
しかし会長は部長兼であるがゆえか、いろいろと多忙らしい。
だから細かいミス連絡は多々あっても、皆、黙認している。
結局下々を通してではなく直接会長と交渉することになるからだ。
「あぁ、そっか、って部長さんだったね。」
不思議な顔をする周りの中で、今、気づいたようにチーちゃんはいう。
「そうらしい。」
認知度低そうだと笑うと、チーちゃんは笑って絶対それはないと言う。
みんなを知っている、とも。
それはそれで、監視されてるみたいで嫌な感じだ。
「僕たち、同じクラスだけど、最近まで全然知らなかったな。」
「自分の部活で手一杯じゃ知らなくて当然よね。」
不二とチーちゃんの会話には一言入れた。
「その割には、水泳部のエースは情報通じゃない?」
「だって勉強なんてもうあきれられてるし、授業中なんかまさに暇なんだもん。」
肘をついてため息をするチーちゃんに、菊丸は羨ましそうに言う。
「えっ!いいな!!・・・俺なんかもう大変。ここの手塚が許しませんて。」
眉をひそめた手塚に、あわわと菊丸は慌てる。
言われ慣れているのか、スルーした手塚はチーちゃんに質問する。
「スポーツ推薦狙いか?」
「それしかないって感じ。」
あたりまえのように返すチーちゃんはやはり水泳部のエースなだけあると思う。
この前も、何度目かのトロフィーを手にするため、表彰台に乗ったっけ。
自信は結果からきているのだろう。
「うちのとこは、成績悪かったら退部させられるってシキタリがあったなぁ。」
まるで他人事のようにいう
けれど、は内心、このままではやばいな、と思っていた。
は選抜組だから平気だね。」
さらっというチーちゃんに一番驚いたのは自身だ。
「そうらしいな。」
とあっさり言う手塚にも、はかなり驚いた。
「なぁんだ、やっぱ成績いいのか。ムカ〜。一人へこみ〜。」
といいながらは、不二くんが嘘教えた、という。
不二は苦笑する。だけど一番納得がいかないのは、不二である。
こないだ20点だと叫んでいた人間は、偽者とでもいうのだろうか。
ちゃんって、成績上位なの?俺、いっつも掲示板見てないし。」
「そういや、て学期試験順位に載ってないね。どうなってんの?」
チーちゃんと菊丸は、矢継ぎ早に に尋ねる。
「待ってよ待ってよ。話飛躍しすぎ。どこからそんな不確かそうな情報仕入れてきたの?」
「先生が言ってた。」
「俺は模擬のランキングを見ただけだ。」
手塚が言ったことに、は首を傾けたが、納得した。
「なんだ。こないだのアレのことか。」
「ノート頼みに行こっかな〜。」
「準備期間中は役に立ちません。ノートとってないし。」
「えぇ〜、そんなバカな。」
「もう眠くって。字揺れてるし、とぎれとぎれでいいなら渡すけど。手塚さんに借りた方が良さげ。」
どんどん話をすすめていくとチーちゃんと手塚に、不二が加わる。
不二は、いつもの授業風景を思い出していた。
「確かに寝てること多いよね。」
英二が寝ている。さんも寝ている。
はじめはチョークを飛ばしていた先生も、諦めからか、寝ている人をいつしか起こしたりしなくなった。
「うちの顧問があきれてたよ。部活のために学校きてるのかって。」
「俺も似たようなもん〜。」
同類だ、と喜ぶ菊丸。
そこに、ずっと静かだったはゆっくりと声を出した。
「・・・・・ねぇ、どっちが本当なの?」
混乱しているは返答した。
「さぁ・・・、まぁ悪すぎってわけじゃないくらい。学期試験は中の下くらい。」
「上位になんていつ載ったの?」
「ああ、それはもう載ってないよ。ただ模擬が良かっただけ。」
「模擬試験?」
「うん。こないだの。マグレ。」
すかさず手塚がツッコミを入れる。
「2位がか?」
余計な。
は泣きたくなった。
「会長〜、なんでそこまで覚えてるんだぁ〜。」
「いや、単に先生がビックリしていただけだ。」
は職員室での、担任との会話を思い出した。
「・・・たしかに。私もビックリ。あんときは面白かった〜。担任が深刻な顔でさ、『2位だぞ』とか言うもんだから、思わず『はぁ?何が?』『へぇ、誰が?』って聞き返しちゃったよ。 『そんな馬鹿な』って驚いてたら、先生の方が驚いてたんだっけ。『嘘くさい』とかいって失礼な。ま、そのとおりなんだけど。」
「学期と模擬の、ギャップがありすぎるんじゃないか?」
「学期末とかって、な〜んか無理なんだよね〜。詰め込む気にならない。っていうよりパンクする。他にやることもあるし。気分がのらないと、ダメ、みたい。」
「コツコツ派か?」
「それもちょっと違うけど〜。」
「普段どうしている?」
「宿題しかやってない。そろそろヤバイかな〜なんて。」
「あぁ、それで乾の問題解いてきたんだね。課題だと思って。」
「え?ああ、うん。そう。」
こないだやらされた、というと聞こえが悪い不二のプリントのことだ。
課題だと思ったは習慣のように、それに向かってしまった。
今更ながら、あれは、難しかったんだぞ、と不二にやつ当たりする。
。それの事だが。」
「あぁ、教科書と睨めっこしてればいつか解けるよ。」
「・・・そうじゃなくてだな。」
「それに手塚、文句なしに成績上位者じゃん。」
「・・・暇なときに・・・」
「部活あるよ。」
「・・・・・・今度教えてくれないか。」
「別にいいけど・・・・・・解答は不二が持ってる。」
ニコニコとしている不二を手塚は睨んだ。





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