世界で一番信用できない  12


食べるものも食べて、辺りはカーテンをかけたように薄暗い。
そろそろ解散ということで、ほんの少しも残っていないコップをカラカラさせながら、全員の帰りの方向を確かめ合う。
全員、そう遠くはない所に住んでいるようだ。
ちゃん、そっちの方に住んでるんだ〜。不二の家に近いね。」
「えっ、そうなの?不二?」
いつのまにか、呼び捨てが定着している。
「うん。そうだね。」
不二の家は、私の家に帰る道筋にあることが発覚した。
私はもちろんと同じ方面だが、一応隣町に位置していて、最寄駅が違う。
距離的には同じくらいだが、どちらかといえば私の家からは、の家よりも隣接地区の不二の家の方が近い。
「私こっから歩いて帰るけど。不二はどうする?途中まで一緒?」
特定人物にのみ耳鋭い菊丸。
ちゃん、俺も一緒する!」
「え?もしかして菊丸も近いの?どの辺?」
・・・そうでもない。
が、遠くもない。
「・・・へへ、ちょっとした用事。」
この場合の用事とは、を家まで無事に送ることだ。
不二に襲われるわけにはいかない。もちろん、手塚なんて論外だ。
俺が守るんだ、とヒーロー気分である。
「うちも歩いて帰ろっかな〜・・・。」
と言い出した
、歩いたらうちから30分はかかるんじゃ・・・・。遠くない?不二家の辺りでバス拾う?それともチャリ持ってく?」
何がなんでも菊丸は二人きりになりたかった。
チャンスがあったら逃がすもんか、と思っていた。
しかし、と仲のいいちゃんをムゲにすることも出来ない。
青春まっただなかの苦しみである。
は、ちょっと迷ったが、すぐに答えはでた。不二君ともうちょっと話せるのは幸せだ。
の家にチャリを返しに行くのは少々面倒くさい。
「途中まで一緒する。バス停まで付き合って。」
途中まで、というのは、菊丸にとっても、嬉しい選択だった。



というわけで、みんなで電車組なチーちゃんを駅の改札まで送る。
それから少し駅から離れたところで手塚と別れる。
別れ際には手塚を呼び止めると、
「ああそだ、手塚。部活って何曜?うちんとこは・・・・だから・・・」
と本当にやるんなら、と、課題の日を取り決めた。
そのあと、不二の家までゆったりと歩いた。
課題の日にはプリントを持参するように伝えて、不二は頷くと真っ白な洋風の家に入っていった。
それから近くのバス停に寄って、を見送った。
あとは自分の家に帰るだけだ。
「菊丸はこれからどこ行くの?」
「英二でいいよ。みんなそう呼んでるし。ちょっと買い物。さあて、行こ〜!」
二人きりになるチャンスを待っていた菊丸は、嬉しさいっぱいだった。
元気有り余ってるなぁ、と羨ましさの反面、は少し疲れていた。
ちゃん、今日、どうだった?」
「うん。楽しかった。」
「ほんと〜!?俺も俺も。」
「コンパっていいイメージなかったけど、やってみるといいものかもね。」
「俺、こういうの初めて。ってかさ、初めてやった。」
「あ、私もだよ。それにそんな感じしなかったしね。」
「また、やってみる?」
「あ〜それはちょっといいや。遠慮しとく。」
「え〜、なんで?」
「今度こそ物怖じしそう。今日のは人数合わせ、みたいなものだから。」
「そう言われたの?」
「いや、そうじゃないけど。・・・?」
立ち止まってちょっと悲しそうな目をする菊丸英二に、は狼狽した。
泣きそうだと思ったからだ。
「なんとなく、場違いかなって思った・・・から・・・かな。みんなかわいいしかっこいいし?」
「・・・そんなことないよ。ちゃんだって、可愛いよ。」
「・・・・・・・・。」
真剣な目は嘘を言っているようには見えない。
だが、自信過剰になれるほど、たくましくもなく、なんていったらいいかわからなかった。
追い討ちをかけるように、菊丸英二は言った。
ちゃんが来てくれて、オレ、嬉しいよ。」
「・・・ありがとう。」
こんなふうに暖かく言われたのは、初めてだった。
自信持とうとかそういう自分に対する励ましじゃなくて、もしそうだったら逆効果だったろう。
とにかく、ありのままをすんなりと受けとめることができた。




「誰か気に入った人、いた?」
「え?」
夢心地だったは、急に、現実感に引き戻された気が、した。
「あ、や、コンパだし。」
英二のキラキラ目に動揺した。
「う〜ん、どうだろう・・・」
言葉を濁した私に、英二は首をかしげる。
「あえていえば、俺、とか。」
俺とか俺とか俺とか、と本当は続いていたが、あまりに小さな声で聞き取れない。
あぁ、やっぱり、そういうのってなくちゃいけないのかな、って思ったり。
だとしたら一番無難そうな人を選びたい。
だから、色恋に無関係そうな、悪い意味じゃなくて、つまり相手にしてくれなさそうな、そういう関係になりそうもない、といった成り行きで、ある人物にガチリと人相がハマった。
指名したところで、何か問題が起きるわけでもないだろう。
ちょっと困らせるかもしれない。それは、ありそうだ。
多少、難しい顔をするかもしれないが、はっきりと断ってくれそうな人だ。
「う〜ん、気に入った、とかいうのじゃないけど、話してみたいな、っていう人はできたよ。」
それは本当だった。何より価値観の違いは刺激になる。
だけど、価値観といった立場から、本当はもっと深いところで似ているような気がした。
「・・・誰、誰?」
「えっと・・・、あえて言えば・・・、手塚?」
恋に出会った男の妄想は、ぐるぐると回り、正確な判断もままならない。
あえていえば、の話である。俺に望みがないわけではない。そう思い込んだら一直線だ。
「ね・・・オレじゃ・・・ダメ?」
言い方が絶妙な可愛さだ。
もうこうなったら勢いだ。
「俺、ちゃん、気に入っちゃった。」
伝えたいことは伝えた。
でいいよ。」
「えっ、それって・・・?」
希望の光だ。
ところが、
「友達でっしょ。別人みたいでなんか振り向けなさそうだし。呼び捨ての方が、慣れてるから。」
というわけで、全く伝わらなかった。
菊丸の好感度大の時にアピールしていれば、これほど前置きが長くなかったならば、おそらくもその場でなにかしら感じることができたはずである。
結局は、ジョークにしか受け止めてはもらえなかった。
菊丸は、私生活でタイミングを計ることが苦手であった。




ラブラブかけない・・・
ダメダメだぁ




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