世界で一番信用できない  13  菊丸の覚悟と手塚の回想


言わなきゃよかった。選ばせるなんてしなきゃよかった。
だけど後の祭り。
の気持ちを菊丸は聞いてしまった。
多分、きっと、彼女は俺が伝えるのを恥ずかしげに待っているのだ。
こうなったら手塚の気持ちを聞くしかない。
手塚がなんとも思っていなかったら、あとは俺が引き受けるだけなんだ。
恋に狂った男の妄想は、一度失恋を味わったことで、たくましくなった。
けれど、たくましくなったのは、絶対言うもんか、という決心だった。
それは、魅力的なであるし、手塚でさえも拒むことはできまいという妙な自信からだった。
それに、毎日声をかけて、毎日好きだと言っていれば、いつか伝わる、振り向いてくれるかもしれない、という希望・願望・野望があった。





どこの学校でも校内順位というものがある。たいてい、掲示板に張られたりする。
青春学園も同様に学期末など試験のランキング順位が張られる。
試験後に自分の出来具合や手応えなど、順位的にいろいろ比較できるので便利だ。
模擬試験は、全国での順位と校内順位の両方がわかる。
模擬試験の結果は機械的に自動分析され、詳細が個人的に渡される。
だから、模擬の結果を特に公にする必要はない。
それに、学校の授業の速度と模試の範囲が違うことがあるから、全国的な順位は気にしないようにという配慮もある。
だが、学校側からしてみれば、全国順位は、そのまま学校の評価に繋がる。
全国順位表に載るような有望な学生を育てたいと、教師の活力を促したりする効果があるという。
それに、リアルタイムな状況を確認できておもしろいらしい。


生徒会長に就任してから、何度か模擬試験のランキング順位というものを目にすることがあった。
見知らぬ名前が上位に載っていたのに気づいて、ふと、興味が湧く。
掲示板の順位表の記憶には、その女性の名はいつもない。だから、珍しい、と思う。
ファイルにしまおうとすると、過去のランキングの中からその女性の名が見えた。
めくってみると、ほとんどの模試ランキング上位に載っていた。安定している。
おそらく進学塾に通っているのだろうな。高校入試を受けるのだろう。
しばらく目を通してから、さらに厚くなったファイルを閉じる。


模擬試験は基本的な問題が多く載っている。だから、暇なときに、復習するようにはしている。
間違っている所を直す、くらいだが。
模擬試験の解答には解き方が載っているから、それを見れば、スムーズに行くはずなのだが、
解説不足の部分もあって、妙に理解できないことがある。
なぜいきなりこの式がでてくるのか、とか。
勉学相手が欲しい。
この人はならばわかるかもしれない、と少し思った。


あるとき、書類を整理していて、その女性の名を見かけた。
『借用申請 ○△■部 部長 
部長名簿にもたしかに載っていた。
部長会で席順表を見ながら、その部活の代表を探す。席は空席だった。
説明を終えて、提出物を集めていたとき、女性が遅れて入ってくる。
「すいません、遅れました。・・・・・あの、終わりですか?」
「ああ。」
「会長、今日の提出物なんですけど、もう一日待ってもらえませんか?」
「締め切りは今日だ。」
「だ〜、やっぱり〜・・・、なんとか間に合わせますんで、放課後までは・・・。」
「わかった。」
「ああどうも〜!!・・・・そだ、閉めちゃわないでくださいね!」
そういってから、『待って〜。今日の連絡教えて〜』と、走り去る。
手塚は慌ただしい一日になりそうだな、と思った。




締切日の慌ただしい人の出入りには慣れている。
今日も同じくそうで、ようやく人の流れが落ち着いた。
辺りは暗くなりはじめて、今日の作業を終わることにする。
生徒会室を出て、鍵を返しに職員室へ行くため、廊下を歩いていると、向こうから女性がパタパタと走って俺を呼ぶ。
「あ〜、会長〜!」
「うわぁ〜間に合った〜。」
渡すものを渡し、何か返答が返ってくるかと思えば、何も返ってこない。
「も〜、顧問、見つからなくって。・・・・う〜、3人もいると、面倒だなぁ。」
一人でしゃべっていたが黙ると、沈黙が走る。
突然口を開いたのは、手塚である。
渡された紙を手に持ったまま、を睨む。
「なんだその髪は。」
今日の昼間と髪型が違う。
部長会で遅れてきたときは、ストレートだったのを覚えている。
だが、今は、クルクルと巻かれて、異国人のようだ。
「なんか友達にやられちゃいました。」
クラスの友達がコテを持参してきて、サラサラヘアをいじらせろ、といわれたのだ。
それで試しにやらせてみたら、ふわふわした巻き毛はお嬢様気分になった。
二つに分けたら、セーラームーンになってしまった。
記念に写真まで撮った。
図にのって、机の上にたってポーズしてみる。
おしおきよ、とか言ってみたら、笑われた。
クラスのアイドル、菊丸や不二まで爆笑するもんだから、
なんだか調子にのりすぎた気がして、髪留めのゴムをはずす。
そっちの方が大人っぽいね、というので、巻き毛のままで下ろしていた。
「パーマは禁止だ。」
校則だ。書いてあるかどうかは見たことないが、まあそういうもんだろう。
天然パーマは届け出を出さなければいけないらしいし。
睨む会長に、意図を感じて、訂正する。
「・・・ああ。コレ、明日には直ります。」
「そうか。・・・・・・・目立つな。」
目の前の会長は、お気に召さないらしい。
せめてまとめろ、といわれたので、髪ゴムを出す。
生徒会長に言われたのじゃ、やるしかない。なにしろ歩く校則辞典だ。
じっと見張られている。この場でやれ、ということだ。
またセーラームーンか・・・・・、やだなぁ、と思いながらも覚悟をきめる。


きっちりと結んだあと、通りがかった教師が声をかけた。
誰とでも気軽に話せるタイプの先生だ。
「おっ、どうした?」
「鍵を返しにきました。」
チャリっと音をさせて、手塚は生徒会室の鍵を出す。
それを先生は受け取る。
「おお、今日もご苦労さん。で、おまえはまた何やらかした?手塚に怒られるなんて。」
「いえ、そういうわけではありません。」
「なんだそうか。またなんかやったのかと思ったんだが。なんなら俺がかわりにコッテリ絞ってやろうかと思ったよ」と笑っているがやる気まんまんの先生。
「えぇ!?嬉しくな〜い。そんなに私って問題児なんですか?そりゃないよ。」
「あたりまえだ。まぁ、問題児ほど可愛いってな。ははは。」
「ちぇっ、どうだか。」
の方に向き直った先生は、今のところ文句はないけどな、残念だと笑う。
「それより珍しくオシャレか?」
「セーラームーン?」
「ははは。そうしてると、ほんとにバカっぽいな。」
「ほんとにって、なに。」
「まあまあ、天才には見えないだろうってことだ。」
「ふ〜ん。別にいいけど。天才じゃぁ、ないし。」
「こいつは案外、おまえより頭いいかもしれんぞ。」
優秀な手塚相手に、面白可笑しく、『二人とも学校偏差を上げてくれよ』という先生。
「どう見ても、んなわけないじゃん。」
「人は見かけによらないからなぁ。」
「そのようですね。」
「「・・・・・・?」」
「いやえっと・・・すまんすまん。つい話こんじゃったな。」
そんな真剣に答えなくても・・・、と半ば冗談で言った先生は、話を切りあげた。
「いえ。」
「もう外は暗いし、手塚、途中まで送ってけ。」
先生のセリフに、私はポカンとだらしなく口をあけた。
「は?」
「はい。わかりました。」
「べ、別にいいよ〜。」
「男は女を送るもんだ。」
「・・・・よくわかんないんだけど。」
「くれぐれも狼にはなるなよ。」
「・・・・・・・。」


と、まぁ、こんな具合の一日だったが、帰り道、あまり会話した覚えはない。
それから何度か、いつものように遅れ気味の提出物では、手塚に迷惑をかけたりするようになった。
外で会ってからは以前よりも話す機会が増えた。
他に、昼にコンビニに行ったりして無断外出の現場を見られたり、など。
私生活の乱れといおうか、まずいときに遭遇したときも、は手塚に見逃してくれるよう頼んだりするのである。
は手塚に悪い印象しか与えなかったが、それなりに親しくなった。




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