世界で一番信用できない  6


「大石さんってここ?」
お昼の団欒を終え、に背中を紅葉を張られ、ガンバと送りだされた私は、大石さんを呼びだしてもらっているところである。何を頑張るんだ、何を。
「あれっ?さんじゃないか、どうしたんだい?」
名前を知られていることに驚いたが、それはよくあることである。
「・・・・・・・、大石さんに用が。」
「なんだい?」
大石さんのマネージャーだろうか・・・。
「・・・・・・。」
今日、聞いた声に似ている
真面目そうな人物だ。
「大石さん?」
「はい。」
しばらくの間で、目の前の人が大石さんであることを認識した。
「・・・・・・・え、あ、あぁっ!朝はありがとうございました。」
「いえいえ。」
「ほんとすみませんです。」
「あれから寝れたかい?」
「ええ、もうほんと、背中が気持ちよくって。なんていうかこう・・・。って大石さん、背中大きいですよね。」
「そっ、そうかな?」
大石は今朝のことを思いだして赤くなっている。
も何バカなことを言っているのかと赤くなった。
「あっ、あと、コレっなんですけど、ありがとうございます。」
いくばくか力みがちではあったが、ズバっと上着を大石さんの目の前にだす。
しかし大石は受け取らなかった。
「あ。これは不二のなんだ。」
「は?」
「だからあの・・・不二のなんですが。」
「なんで?」
二度も答えは繰り返され、私も二度答え返した。
「不二もテニス部だし・・・・?」
お互い言葉が足りない人間同士らしい。
幾度ものやりとりでようやく状況がつかめてきた。
「私が部室で寝かせてもらって、菊丸君と不二君がやってきて、上着3つかけられて、やっと起きたと思ったら、フラフラ教室向かおうとして、菊丸が上着をくれて、それが不二のだった。というわけで合ってます?」
「そうだね。」
正解したところで、午後の授業のチャイムが鳴った。
「・・・・・・ハァ・・・いろいろと・・・いろんな意味で・・・ありがとうございました。」
「どういたしまして。」
私は、ふりだしに戻ったスゴロクの駒になったような気がした。



そんな奇妙なやりとりをして、スゴスゴと私は自分の教室に戻った。
菊丸と不二が話をしているのが見えた。
寝不足の元凶だった不二にお礼を言うのはなんとなく嫌だったが、しかたあるまいと決意し、 おかえりとすれ違う声に適当に返して目標の二人に近づいた。
ここまでくるのにすごく遠回りした気がする。実際そうなのだが。
「不二君。これ、ありがとう。」
たたまれた上着を差し出すと、不二は。
「こっちこそプリントありがとう。」
会話終了。
それ以上コミュニケーションを続けられない私は、すかさず菊丸君にお礼を言う。
「菊丸君もありがとう。」
するとなぜか彼はガッツポーズをした。
「いーえー!」
いいえとイェイが混ざっているようだ。
「・・・・・・。」
会話終了。
私は、ぐっさり疲れてしまった。
「あれれ・・・・・・さん元気ない?」
菊丸君、私にその元気を分けてください。ガッツ分けてください。
「・・・・・・ちょっとね。」
「当たった〜。じゃぁ保健室行こ!」
といって菊丸は席を立って私の背中を押し、レッツゴー!と保健室へ連れて行こうとする。
「いや、そこまで酷くないって。」
たいしたことないからと歩みを止めたのだが、菊丸君は心配そうにしていた。
「えぇ〜?ほんとほんと?」
ほんとほんとと頷いても、菊丸君は慌てる所が怪しい・・・と不二に同意を得ようとする。
「フフっ。英二、さんに迷惑だよ?」
と不二がいうと、菊丸の動きはぴたっと止まった。
不二くん、気にするどころかあなたを恨みたいです。
昨日の課題との格闘を思い返しながら心の中で呟いた。



放課後になり、机の中を片付けていると、声をかけられた。
さん。」
「ん?・・・あ、不二君か。」
「もしかして、今日寝不足なのって僕のせいかな?」
「ううん。もしかしなくても自分のせいだし。」
「ごめん。」
「あ、違うって。私のせい。」
「何話してんの〜??」
と菊丸が群がる。
「そう?昨日一日中あの問題解いてたんじゃない?」
「え?うん。迷惑だった?」
「ううん。それにしてもなんで解いたのかなって思って。」
「アレ今日までに必要かもしれなかったから・・・?」
「あれってなに〜?」
菊丸が私の聞きたいことを言ってくれた。
「そうそう。あれって何なの?」
「試験対策なんだ。うちの部員のお手製の試験対策。」
は、感嘆した。
さすが、部活動で、全国を争う、といったところか。
部活動だけでなく、勉学にもきちんと取り組んでいるのだろう。
一つにしか集中できない私にはできない芸当だ。
作った人が誰なのか教えてほしい気もする。
きっと、試験前には心強いだろう。
「へぇ〜。・・・・みたことない問題ばっかで、こっちは必死だったよ。」
「スゲイじゃんっ!さんってば、乾の問題解いちゃったんだ〜!?」
「そうなるね。」
不二と菊丸は、のぐったりした朝の疲労感に合点がいった。
「やればできる?みたいな。」
は二人ともできるよ、と笑った。
「あったまいいんだー。オレなら絶対寝る自信あるよん。」
さんは元がいいって聞いたけど?」
二人とも感心していた。
冗談じゃなく、乾の問題は尋常じゃないからだ。
から聞いたの?それをいうならあれだって・・・・。」



「おい、。またきてるぜ。」
クラスメートから呼びかけられた。
「「また?」」
と菊丸と不二は声を合わせたが、は沈黙したままだ。
「・・・・・。」
は何か真剣な顔つきになっている。
不二と菊丸も入り口の方に振り向いた。
1年生らしき女の子がおずおずと顔を覗かせる。
「・・・・・・。ありがと。ちょっとごめん。」
は元に表情に戻っていて、何を考えていたのかわからないまま、席をはずした。
「気になるね。」
「そうだね。」
不二と菊丸はの背中を見送った。
「またってどういういみ?」
不二と菊丸はクラスメートを呼び寄せこんなことがよくあるのかきいた。
部長職だからいろいろと呼ばれることが多く、大抵は連絡とかだけですぐ終わるけど、そうじゃない事も何度もあるらしい。
廊下で何度かのやりとりのあと、は少しの間考え込み、女の子の手を取り教室に入ってきた。
「悪いんだけど教室開けてもらっていい?」
都合よく、教室には数人しかいなかった。
「いいけど、相談事ならどこか空借りようか?」
不二は言ったが、
「そんな長くないし。それに・・・。」
と女の子を見やる。
そこまでしてくれなくていいです、とでもいうように怖気づいている。
「おいでよ。」
と菊丸が女の子を隅の席の方へ促す。
人懐っこい菊丸の性格が功を奏したのか、女の子は素直に席に座る。
「僕達も聞いていいかな?」
と不二はいつものように微笑んだが、女の子は助けを求めるように私を見上げる。
私はそれに応じて、不二と菊丸に提案した。
「そうだ。不二君と菊丸君に頼みたいことあるんだけど。」
「「?」」
「今日休む、って練乳に頼んどいて。」




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