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何か起こるかもしれない。

何かあれば瓦版に売りつけようかとも思った雪ノ丞なのだが、何も起こらなかった。
期待していた何かが起こらなくて、雪ノ丞はやや不機嫌になっていた。
今日の一件を考えながらブラブラしているうちに、日が暮れてしまった。




辺りは暗くなりはじめ、青白い月が明るさを称えはじめた。これから夜の時間である。
帰ろうかと思ったのだが、このまま帰るような気分ではなかった。

一杯やっていこう。

そう思いついたとき、通り道の先に、男衆が一箇所に群がっていた。

10人くらいだろうか。
いかにも悪人面、である。
(遠めから見ても、わかりやすくていい。)

ゴロツキなどに係わり合いになるまいと、手前の曲がり角を曲がろうとしたのだが、 一人、色の違う男が、輪の中心にいるのに気づく。

悪人面の男が大きな声で、わめいている。
どうやら絡まれているらしい。
困り顔をしていた男と、ふと目が合ったような気がした。

「痛い目見ることになるぜぇ〜・・・」
と、ごろつきは、汚らしい浅黒肌の笑顔を浮かべた。
あぁ、近寄りたくない。
そう思わせる輩である。

逆に囲まれていた男は
「ほほう。痛い目か。それはどんなだ。」
と挑発している。
だが、楽しそうではない。

すると、ごろつきが、懐から短刀を取り出した。
男はそれを見て、顔色を変えた。

できることなら、何も見なかった事にしたい。
が、それもこうなってしまえば捨て置くこともできない。
多勢に無勢だ。
小悪党が刀をちらつかせると、男は腰に差してある刀に手をやった。
「おぅっ、やろうってぇのか!?」




雪の丞は、そこへ歩み寄った。
「・・・おい。」
「なんだ、てめぇ・・・。」

ごろつき共は、一斉にこちらを振り返り、目を細めた。
辺りはもう真っ暗で、向こうからは建物の影に隠れて顔が見えない。
雪ノ丞の袴だけが、灯りに照らされていた。

雪の丞は、ゆっくりと刀を抜いた。

「餌になりたいか・・・・・・・・?」

低い声でうなるような響き。
顔の見えない佇まいが、不気味さを一層に際立たせる。
細い腕から、刀身がすっと伸びている。
そこに近くの店の灯りが反射して、切っ先から血を流しているように見える。
恐れをなした男衆は、化け物に出会ってしまったかのように、一様に短刀を捨てて退散した。




後姿も見えなくなり、刀身をすっと鞘に戻す。

「かたじけない。絡まれて困り果てていたのだ。」
囲まれていた男は、よくみれば、腰に二本差しであった。

どこかの武家か・・・。

それより、今日は、昼から団子二串とお茶しか口にしていない。
それも手伝ってか、
「貴公、金を持っているか?」
腹からうねり出した低い声は脅迫まがいの声色である。

「・・・・・・。だとしたらどうする?・・・そなた、やつらの仲間か?」
あなたは罪人ですかと問われて、はいその通りですと答えるようなものに等しい。
そんなわけはないだろうとバカ呼ばわりしたいものの、そう思われても仕方がなかった。事実、脅迫めいた声なのだから。

襲われていた侍は、その身に覚えがあるのかないのか、怪しい者は皆同類と疑ってしまう性分らしい。
目を細めて睨み、こちらの出方を伺っている。
やもすれば戦闘になる。
そう判断した私は、とっさに両手を上げ、白旗を揚げた。




一歩踏み出すと、雪ノ丞の顔が月明かりに照らされ明らかになった。
男なのか女なのか、ちょっと見当のつきかねる顔立ちである。

「・・・・一杯付き合ってくれ。もちろん貴公の奢りで。」

余計な労力を費やした、とため息をつく若者に、
唖然となった新之助は、ややした後、笑顔で応えた。

「私は徳田新之助。貧乏旗本の三男坊。手持ちは少ないが、喜んでお付き合いいたそう。」
「私は通りすがりの浪人です。名は、雪ノ丞。」

声に女性の響きが含まれていた、が、男の名である。
新之助は真面目な顔になった。

「失礼を承知でお聞きするが、雪ノ丞殿。俺は衆道(男色)ではないが・・・。」
「さあ?・・・どちらでもいいじゃないですか、・・・私は構いませんけどね。」

答えるでもなく、苦笑を浮かべた若者の女子のような笑顔に、新之助は混乱した。




お庭番は、他の誰かが上様の傍にいる場合は、姿を見せない。
誰にも見られないところで、こっそりとコンタクトをとっている。
しかし、今、上様の傍に、人がいた。仲良く話をしている。
だから、お庭番「十文字隼人」は、タイミングを図るため、うずうずしている最中である。
しかし、傍に、供がいるため、うかつに近づけないのだ。
というのも、いかにも忍びである格好をしているからだ。

このまま上様の前に行くわけにはいかない。

それに先ほど、下賎な輩に絡まれてしまった上様をお助けしようと思っていたのに、先を越されてしまった。
片手に持った手裏剣の行く宛てもない。

お庭番としてのメンツが台無しだ。

だんだんとイライラしてくる。

あの若者、何者だ?

怪しいやつめ
上様に近づくでない、気軽に話しかけるな。

人の良い上様は、断りきれないだろう。
そうだ、後をつけて素性を調べてやろう、とお庭番根性丸出しである。

ところが、その上様は、若者に袖を引っ張られて、連れて行かれてしまう。
邪魔してやろうかと思いもしたのに、あろうことか、上様は楽しそうでさえある。
聞き耳をたててやろう・・・、と、隼人は、二人の後をつけた。





はーやーとぉっ!!
お庭番の中で一番好きです

今回の注目シーン
隼人のお庭番根性(爆笑)




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