白の死神 |
私は朽木白哉が好きだった。 緋真だけは、それを知っていた。 「ごめん。ごめんね・・」 流魂街の出である緋真には、あまりにも味方が少なかった。 だから自然と、白哉の幼馴染だった私は交流することがあった。 四大貴族の朽木白哉が、どこからか見つけてきた緋真と結婚すると言ったときには、にわかには信じられない気もしたが、緋真のとりまく空気を知ってからというもの理解はできた。 とても優しい人だったから、私も好きになれた。 だから、反対を押し切ろうとする白哉を後押しするようなこともした。 でも、白哉への想いは決して消すことができなかった。 緋真だけは、それを知っていた。 脆いほどの細い腕をこの世に留めるように、私は許しを請う。 「白哉の一番はあなただからっ・・!」 緋真は困ったように慰めるように言う。 「様、いいのです・・・。・・どうか百哉様を・・赦してさしあげてください・・」 あれから、もう―― 「」 聞き慣れた白哉の声に、は喜びつつ振り返る。 元11番隊隊員だった私は、更木剣八隊長や草鹿やちる副隊長同様、方向感覚のずれを伝承し、ときどき迷子になる。 肩に傷を負い、頭から血を流す朽木白哉のその姿に、動揺した。 「ちょ、ちょっと!何て怪我してんのよ」 六番隊隊長、朽木白哉が負傷するなど、信じられない。 「疲れたのだ」 白哉は憔悴していた。 白哉が弱音を吐くことは滅多にない。 だから、は慌ててしまった。 「頭から血がドロドロ出てるのわかんないの!?何平気な顔してんのよ!」 「かまわぬ」 「あんたねえ」 「疲れたのだ」 どうすればいいのかわからなかった。 「白哉」 「は?」 「私の名を呼んではくれぬか」 「白哉?」 「すまぬ、。世話をかけた」 倒れ寄りかかる白哉。焦った私はとにかく病院につれていこうと必死で担いだ。 「緋真・・私は何をしていたのだろうな」 ひさな、という名に私の足は止まった。 「おまえの言った通りだった」 白哉は緋真の中でまだ生きている。そう思ったら苦しくなった。 「情けない。私は何もしてやれなかった」 白哉の告白は続く。 彼がこうして私のところへくるのは、私の中に緋真の面影があるからだ。 ようやく、諦められるような気がした。白哉が緋真と出会ってから50数年。私は傷ついてきた。 もういい。もうやめよう。 「ひさな・・・」 と彼は彼女を呼ぶ。決定打だった。 体を預けて甘える白哉を、捨てた。 「何をする、」 私の名を呼ばないで。 その口でその声で、その心で私に救いを求めないで。 苦しかった 「こっちの台詞よ。何なのよもうっ。たいした傷じゃないじゃない。心配して損したわっ」 思いつきの言い訳を並べてごまかそうとした。 「緋真の想いを遂げたかったんでしょう?私に相談するより先に、やるべき事ってのがあるんじゃないのっ!?」 やっぱり私はお人よしなのかもしれない。 持っていたハンカチで、白哉の額に流れる血をふき取る。 これが最後。あなたに優しくするなんて、もう最後にする。そう思った。 「わかってるんでしょう!?あんたいつから目が見えなくなったの!?誓いが二つあるなら、二つとも守ればいいじゃないの!ずるく生きなさいよ!掟に逆らえないなら、その掟疑ってみてもいいじゃない!賢い頭、もっと働かせなさいよ!」 器用なくせに変なところで不器用だから好きになった。 なのに、彼の一部は死んでしまっている。 緋真は何て酷いものを残していってしまったんだろう。きっとあなたのせい。 彼は死んだ組織に侵食され、もう私の好きな彼の形をとどめていない。 そういうことなんだ。 涙がでた。 彼が私の頬をなでた。 「触らないで!」 「何を怒っている」 怒っていない。悲しんでるだけ。 なるべくして為ったのだ。 思ってもみない感触が唇にあたった。 「すまぬ」 彼の死んだ細胞が、私の中に入りこみ、狂わせる。 どれだけ傷ついてもずっと支えてきた私の想いは、このとき微塵に砕かれた。 心も体も凍りつき、人形となることを決めた。 朽木白哉は、背中に足跡をつけられた。 |
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