白の死神







あれから、どれくらいたったのか。
一日二日と数えるのは長い年月を生きる死神には無理難題である。
元の生活に戻り、少し変わったのは、白哉との関係。
白哉はあまりのことを心配しないようになった。表面上は。
ときどき、存在を確かめるように振り返り名前を呼ぶ。
目下心配が必要なのは、のことよりもルキアのことである。
ルキアの席官就任を快く思わない白哉は、裏で手を回し、その思惑を理解できるはしぶしぶ手を貸した。
そんなルキアに不満がでないわけがない。
お兄様と親しい殿に、ご相談、を持ちかけてきた。
「お兄様に申し訳が・・」
ルキアは、自己嫌悪に陥っている。
ルキアは、朽木の名に実感を持ち始め、その重さ、責任を果たそうとしている。
白哉兄様の為に。
「私も席ないしさあ。なっても面倒なだけだと思うよ」
殿は特別な方です!そういい切れるところなどが特に!でも私は・・」
「深刻になるほど、別に恥では」
殿はお兄様に可愛がられておりますからそのように。私は・・私は・・」
こうしてルキアがに相談を持ちかけるのも、が白哉と親しい間柄だからだろう。
ルキアはずっと朽木の名を背負うことに疑問を持っていた。必要な自信が足りなかった。
揺らぐことのない繋がりを得た今、その心配は無くなった。
「本物のお兄様なわけだしさあ・・、そんなに畏まらなくても」
「だからこそなのです!私は少しでもお返ししたいのです」
似ている、と思う。
緋真に似ている。一心に何かを求めるところが。
白哉を敬愛し始めている。畏怖に似た感情から、より近しいものに、変わりはじめている。
認められたい、そう思い始めている。
「まあ・・切っても切れないわけだから・・。急ぐ必要はないんじゃないかな」
独り立ちするまでは、何があっても絶対に白哉とのことを隠し通そう、とは思う。
微笑むの仮面の下に、裏の顔があるなどと知られたら、どうなるか。
それだけならいい。けれど、敬愛はいつか、変わる。
そうなったとき、私の居場所は無くなるかもしれない。
もしも三角関係が勃発したら、いち早く逃げよう、と思う
朽木白哉の本心がどこにあろうと関係なく、自分は自分らしくありたい。
長年を友人として過ごしてきすぎたのか、彼の意志に反して嫌われたとしても構わなかった。
「そう・・・ですね。焦っておりました、私は」
馴染めない朽木の生活で、頑張ろうと思えたのは、時折見るその人の存在だった。
広すぎて落ち着かない和室も、視点を変えるだけで世界が変わった。
その存在がとてつもなく大きなものだと感じたのは、朽木白哉が鋭い目をその人に向けた時だった。
嫌っているのか、と思えた。しかし、そうではなかった。は朽木白哉の頬をつまむという突拍子もない行動にでて、朽木白哉の反応に恐れおののいたルキアは、その懸念が無駄なことだと知った。
掴みどころが無いと朽木白哉は言ったが、それ以上に気難しく激しく掴みどころがない朽木白哉の扱いに長けていた。
ルキアが護廷十三隊に入隊した時、が平隊員であるという事実は青天の霹靂だった。
席官とはそれほど難しいものなのかと思った。だがのちに、なる気がないだけなのだと聞かされた。
六番隊隊長の側に控えるその人は、『朽木の』という敬称で広く知れ渡っていた。
朽木の親友として優遇され、信頼されていた。使用人も同じことを言っていた。
今日はどうも宗主の機嫌が悪い。では、殿を呼び、何とかしていただこう。
殿がしばらく顔をみせていない。このままでは宗主の機嫌が悪くなる。
そういう図式が成立していた。
は、朽木家の階級や己の階級などものともせず、怖じず、自らの存在を貫いていた。
朽木の世界に、凛と咲く別世界だった。

かくして、こうありたいと思うに至る。その人が、声を掛けてくれる。
どこか吹っ切れたように、ルキアは別の話を急いだ。
蘇った残魄刀の話から、失った元凶、黒崎一護の話になり、石田と申す者が出てきては乗り気になった。
殿は、石田雨竜をお気に召されたのですか?」
ルキアは不思議がる。あのひょろひょろした男のどこがと。
あんなのよりよほど白哉兄様の方が、と勝手なことを思う。
「ルキア、衣服をもらったじゃない。気になるっていうか、ちょっとね。オシャレに縁なかったし。女の子ならやっぱり何かしたいなあって思うし、もらってみたいなあ、って思ったり」
「もらいたい、ものなのですか?」
「欲しい欲しいっ」
チャッピー欲しいのと同じ、とが言うと、ルキアはなるほど欲しいと勢いよく頷いた。
「ですが服は、ここではあまり」
「だよねえ・・。けど死装束だけってのもねえ」
殺風景ではある。ルキアは気にしたことはなかったけれど、ぬいぐるみを抱えた姿を想像して夢心地になった。
同じぬいぐるみでもコンみたいな小動物は却下だし、に似合うぬいぐるみというのもよくわからない。
ルキアはスタンダードな提案をする。
「髪飾りや首飾りなどはいかがです。腕輪なども」
「腕輪ってイメージがごつそうだけど・・」
「役に立ちそうではありませぬか」
こう、ゴツンと。手振りをするルキアは、武器を想定していた。
「便利ではあるけど」
ルキアに色気を!と思った瞬間だった。
やっぱりオシャレ話は乱菊とするのが一番妥当だ。
おいとましようと思いかけたところに、白哉がやってくる。
ルキアは嬉しそうに話しかけた。
「お兄様。今、貴金属類の話をしていたところです」
「貴金属?」
「はい。髪留めや首輪、腕輪などなど」
「必要なものがあるというのならば」
「いえ。私ではなく、殿なのですが。殿に似合う貴金属類は何だと思われますか?」
はその答えに少し興味があった。
白哉は考えだし、腕を組む。
その様子に何か深い考えがあるのではと、ルキアは興味深く身を乗り出す。
「婚約指輪をいずれ」
「なるほど!お兄様はやはり。いずれ向かい合う敵に、即効性の攻撃力のあるものを、と思われたのですね」
は、白哉のさらりとした台詞に唖然とし、ルキアの色気のなさに落胆。いや、勘違いに安堵か。
喜び勇んで作った拳をルキアは、緩めた。
殿はお好みでない様子ですね」
「では結婚指輪の」
「ような日々使いやすく重量感のあるものならばもキレた。
「もう何でも。そんなものは売ってボロ屋敷の補修費用にするんだから」
二人に期待した私が馬鹿でした・・くすん。
ホロ苦い淡い期待に、は背を丸めて部屋を出ていく。
声をかけてもは振り向かず、白哉はルキアに尋ねた。
は何を望んでいたのだ」
「元々は衣服の話をしていて、瀞霊廷では使うこともありませんし、ですから、ならせめて貴金属をと思ったのですが。あの様子では戦闘を視野に入れないものをということでしょうか」
要領を得ないと白哉は言う。
「装飾品の話ではないのか」
「あ、はい」
「それならば・・。話をしてこよう」
帰宅したかと思われたは、まだ敷地内にいた。
隅の方で、は落ち込んでいた。
だいたい、わかめ大使兄妹に話すのが間違っていたんだ、とぶつくさ言う。
「何がいいたい」
は自分の世界に入っている。
しかたなしに、白哉はの腕をとった。
「見せたいものがある」
白哉の部屋に連れてこられたは、白哉が押入れを探っているのをじっと見ていた。
白哉はそこから、片手で支えられるくらいの小さな箱を取り出した。
開けるように促され、中身を見たは言葉を失う。
木目調の美しい玉手箱の中には、懐かしい品々が入っていた。


【ラリエット】――二重に石が重なっている貴重な宝石が使われた首飾り――
外が蒼。内が紅。光をあてると、内が紫、外が白になるといい、虹色があらわれることから、霓彩石(虹鏡石)と呼ばれる。それをふちどるものには細工がしてあり、芸林といわれる複数の名匠の銘が刻まれた一品。
高すぎて買い手がつかないだろうと断られたが、しばらくして売れた。
その莫大な銭で、貴重な薬草の種を買い育てた。

「はじめてを見たのは、この屋敷だ。人形のような幼い子で、白布の髪飾り、銀色の足鈴環。動く度にチリチリと鳴り、夢物語のように印象的だったのだ。すぐに姿形は忘れてしまったが、身に着けていたものだけは覚えていた。」
幼い頃身に着けていた絹製の白いリボン。霧氷護湊雲。織物自体はさほど珍しくなかったが、そこに入っている刺繍が名匠のものだとかで欲しがる人がいた。うっすらと残る両親の記憶を手放すのが惜しくて、は子供心に高値をふっかけた。文字を書くことすらままならなかったは、得たお金で気に入った絵本を買い、ボロボロになるまで写字を繰り返した。今でも一言一句覚えている。 以来、ずっと身に着けていたのは、このアンクレット。1ミリほどの極小の銀鈴を煩悩の数にあわせて繋がれた足鈴環は、百八銀鐘といい、一族の一番年若い者に贈られると書物には書かれてあったが、一族がどうのというより、これを使って音をたてずに舞うのが好きで、まるで分身のようなそれを手放したときは身を切られた思いがしたものだ。
だけど、どうして。
定期的に手入れがなされているのか、汚れひとつない。
「次に見たのは、上流貴族のみで行われる合同祭祀だ。髪飾りこそないが白い衣を纏い、銀色の足鈴環が光るのを見た。その子は言葉を発することもなく裏方に徹していたが、時折鳴る小さな鈴の音に、気は自然とそちらに向いた」

一族は短命の不吉な家系として、周囲からは疎まれ、蔑まれていた。
近寄る者もないが、勝ち得た信頼は確かな物になると気づいていた。
そのころから、人より遅れていた教育を追いながら、知識を叩き込むようになった。
誰でもいいから、認めてくれる人が欲しいと、必死になった。
そんな日々を白哉は知っていたというのだろうか。
「夜道を散歩中、突然目の前に現れた者に、驚いたのはこちらの方だ。着古された粗末な衣服を着用していた時点で瀞霊廷の者としては不釣合い、流魂街の者と思えた。その者は、薄汚れた手足に林檎を手にし、あろうことか銀色の足鈴環をしていた。食べ物を恵んでください、と恥も外聞もなく頼む。それからたまに現われるようになった。私は待つようになり、時間を共に過ごすようになった。そうして一度だけ見た舞いを最後に、銀色の足鈴環は、足元から消えた」
教師は自宅の書庫だけで、遊び場だったはずのそこは、断崖絶壁の孤島となった。
そうして、自らの体質を知るにつれ、呪いきることもできず、打ちのめされた。
人と同じ方法、同じ道を歩んでは、決してそこにはたどり着けないことを理解する、辛く苦しい日々だった。
不安定な霊力は操作具合が難しく、何度も暴走しかけて抑えきれずに昏倒した。
銀色の足鈴環を質に入れ、霊力を扱うことだけに専念した。
自分自身の霊力に死にかけているうちに、客人が訪れた。
――四楓院夜一
やたらでかい霊圧の発生源を調査しにきたのだと言った四楓院夜一は、よく忍び込む先の四代貴族の長だとかで、知る人ぞ知る茶目っけたっぷりの人だったが、そのときはまるで別人のような顔をしていた。
これが本物か、とそう思った。こそこそと隠れるような死神とは違っていた。
本物の死神になれたなら、まっすぐ前だけを見ていられるんじゃないかと思った。
世話好きは相変わらずで、練習相手どころか、いい敵対象になってくれた。
鬼道ひとつとっても死を覚悟して向かったし、想像を超えた反撃ももらった。
決して諦めなかった。霊力が耐えても、勘だけで生き抜いた。
ふらふらになりながら手に食物を持ち、先に夜一が根を上げるまでそれは続いた。
そうして自分に足りないものや、自分が扱える霊力の実質量というものを知ることができた。
今も忘れられない貴重な一日。あれが死神としての第一歩だった。

その日を境に、は変化していく。本物の死神になろうと決心した。克服してやると強く思った。
体質は己の長所として、足りないものは短所とし、長所を伸ばし短所を埋めようと躍起になった。
やることは沢山あり、白打、歩法、鬼道、どれも足りなかった。
斬魄刀が使えないなら、使わずにすむほどの能力を求めた。
清潔な衣服を買い揃え、教えを請いにどこにでも頭を下げた。
優秀、そう言われても実感は湧かなかったし、嬉しくもなかった。
そうするうちに金も尽き、真央霊術院にも幾度も忍び込んでは、年月かけて一通りの鬼道を会得した。
「久しく現れたと思ったら、正門から堂々と、別人のような容姿を持って、稽古中の私を通り過ぎ、父に向かって名を名乗り、一手指南を請う。父は驚いた様子で、だがそれを受けた。腕に独特な紐をまきつけ、礼を欠かさず立ち向かい、倒れても尚立ち上がり、完全に気絶するまでそれは続いた」
朽木家宗主は一族のことを詳しく知っていた。
またが度々侵入という形で訪問しているのを知っていた。
宗主はと白哉の関係を、密会せずともと言ったわけだが置いておこう。
は公式に歓迎され、そうして代々伝わる護身具の紐にまつわる話をし、助言と忠告を頂いた。
「父は古物商を回り、百八銀鐘という装身具の行方を探し、銀色の足鈴環を手にした。私はおぼろげな記憶を辿り、それを納めた人物が、以前、白い髪飾りを出したかどうか尋ねた。すでに人手に渡っていたそれを頼み込み手に入れたが、父はそれを返すべきではないとして、以降、家より出品されたものの行方は、朽木家の知るところとなっている」
辿ってきた人生のひとつひとつを、追われていた。
暴露されるごとに愚行だと笑っていたのではないか。

「知らなかった・・・。知りたくなかった。見たくなかったっ!」
苦しくてたまらなかった。
両親の記憶もにおいも覚えてない。なのにこれらはそれを象徴し、裏切り行為をまざまざと見せ付けられている気分だった。
捨てた物。そうして得た物。振り返ることなく、生き延びようとした。罪悪感など忘れてしまった。
そういう時代を白哉は見ていた。朽木が支えていてくれた。
「思い出したくないっっ!」
一人で生きてきたなんて、思い上がりもいいところだ。自嘲してもし足りない。
見てくれていた人がいる。それなのになぜあれほど孤独だと感じることができたのか。
必死に立っていた、地に足をつけていたそれが、足元から全てが崩れ落ちていくような感覚だった。
「思い出させないでっ!」
は小箱ごと、外へ振り払った。
音をたてて転がる箱から、中身が零れ落ちる。
破壊のためには渾身の力で詠唱を唱えはじめた。
白哉は、ひとつずつ大事そうにそれを拾い集めながら立ちふさがる。
「その瞳で何ができる」
は顔を振り、流れる涙が頬から飛び散った。
「できるのか」
低く優しい声に、指先に込めた力が抜けていく。
目を塞ごうと、は白哉に泣きついた。
白哉は胸を貸し、怒りと哀しみを受け止める。
少し息苦しくなるくらいの強さで抱きしめて、背中を軽くたたきながら落ち着くのを待った。
「我侭かもしれぬ。これらは私のもので、今はおまえのものではない。引き換えに得たものを踏みにじる行為。だが、の主たる象徴を消すことはできぬ」
チリ、と鈴の音が鳴った。
懐かしくて切なくて苦しくて胸が痛い。
なのに、少しずつ心が洗われていく様だった。
「慕情、愚拙、かかわらず、すべて受け入れる覚悟の準備期間を与える。満忌まで、これは確かな牽連の一環として、私が預かる」
「・・ずるい」
「結構。破棄されてはかなわぬ」
高圧的で意図的に、有無を言わせず、ひとつの約束をさせられてしまった。
髪を撫で付け、涙の痕を乾かす白哉の指先は、ひやりと冷たかった。
それ以上に伝わってくる愛が、暖かかった。

「いつまで隠れている」
はっとして、が目元を擦ろうとすると、白哉は優しい手のひらでその顔を胸に隠した。
ど、どうしよう・・、と呟くと、今更だと囁かれ、棒立ちになるしかなかった。
ルキアは慌てながら言い訳をする。
「あ、あの・・覗くつもりはこれっぽっちもなかったのです。すみませんでしたっ!で、でも、どうやら誤解が解けたようでよかったのですっ。どうなるのかとハラハラいたしました」
ルキアは、事態が一件落着し、安堵していた。
誤解とは、という質問に対しても、ルキアはわが道をゆく。
「長く親しきお二人が本当に信頼し合っていることを知り、安堵いたしました。旧知の友とは良いものですね。任せてください。殺し合いをしそうになったなど、口外は一切いたしません。そういうわけで私は戻ります」
では、そういってルキアは満足したように晴れ晴れとした顔で帰っていった。
理由はさっぱりわからないが、殿も泣くことがあるのだな、とルキアは心動かされていた。
泣き顔はきっと奥ゆかしく可愛らしい、と相手もいないのに100円賭けていた。
「・・どっと疲れた・・」
兄様の不潔、とかなんとか言われるんじゃないかと、は密かに期待していたわけで。
滅多にみられないプロポーズの現場を目撃していたなんて、思いもしなかったらしい。
良かったのか悪かったのか、ルキアが関係を知る最悪の状況は、まだ少し先のようである。
「面倒だ」
そう、それ。
え、とは驚いて、声の主を見上げる。
同じ事を考えているとしても、白哉はそういうことを口に出す人ではなかったから。
白哉は消えたルキアの方角を見ていて、こちらを見るとごまかすように軽くキスをした。
「ちょ、ちょっと。誤魔化されないからね」
白哉は不満そうに、そして矛先をこちらへ向ける。
「いつまで隠したがる」
「ルキアが大人になるまではダメなのっ」
「私との問題だと思うが」
はむっとなった。
「もう、なんで白哉は直情的で考えなしなのようっ」
「なぜわからぬのか、そちらの方がわからぬ」
わからぬのかわからぬ、それがわからぬ、堂々巡りに続けてしまいそうだった。
「だって私のこと全部ひっくるめて責任持とうって言うんでしょ」
「言葉は違うが」
「言ってないならいいわよ・・・もう全部無かったことに」
あんな難しい言葉は覚えられない。
「すまぬ。申した。申し上げた」
取り繕う白哉に、はやけになって見返した。
「片方に私。片方にルキア。天秤にかけられるわけじゃないでしょう。どーせ選べないんだし」
「選択して欲しいと?」
「選べるの?」
「無理というものだ」
白哉はあっさりとしている。
「なら片方で十分じゃない。両方持ったら倒れるよ」
「ありがたい心配だが、倒れはせぬ。万一、倒れかけても、は私を支えている」
「・・・えー・・・」
まんざら嫌でもなさそうだ、と白哉の口の端に微笑がのぼる。
まるで一方通行な婚姻の件もまったく望んでいないわけではないのだと知ると、やはり嬉しいものがあった。
いたずらをしたくなる。
「嫉妬するなら穏やかにな」
「なっ」
「冗談だ」
両手に華を持ち、いずれか一方を枯らさなければならないとしても、楔となる花瓶で守り、手元の華は活けてやろう。
どちらも同じように大切だが、どちらも違う。ひとつは生きるために必要で、ひとつは生かすために必要だ。
「片方の華、枯れる前にいただいて、新たな芽が咲くのを待つ、もいい」
「食べごろじゃないわよ」
「では咲かせるのはどうだ」
まあいいか、とは妥協し、4度目のプロポーズはいつになることやらとため息をつく。
案外、5回、6回と増えるばかりかもしれない、と思ったりした。
白哉は頭の隅に、自分が天秤に乗せられている状態を想像したが、すぐにそれを打ち消した。
天秤は常に自分を基準とするものである。










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