白の死神


10




――隊首会。

朽木白哉が浮竹の要請書を目の前でバラバラにちぎり捨てたのが問題となった。
「一人で抱え込むのは、ずるいぞ、朽木」
浮竹は、ずるいずるいと駄々をこね、そのうち咳にむせてしまった。
朽木の態度は冷ややかで、
「私にはその権利がある」
と、主張した。
今日の議題は、朽木のの優遇について、と決まった。

「よくわかんねーんだけど」
日番谷は、つまり体のいいパシリってことだろ、と呟く。
だいたい、なんで優遇しなきゃならないのか理解できない。
朽木より先に砕蜂はきつい視線を送る。
「節穴め。夜一様が信頼なさるお方は、そのような器ではない」
夜一夜一って、ああだるいと日番谷は聞く。
「じゃあどんな器なんだよ」
砕蜂が答えに迷っている間に、更木が相当の自信があるように言った。
「元十一番隊だぜ。心意気が違わなあ」
それ答えになってねえし、と日番谷は思う。
「小僧は知らんだろうが、一度瀞霊廷が吹き飛んだことがあったのう」
山本元柳斎はほくそ笑んだ。
「うさんくせー」
日番谷は机に肘を立て、顎を乗せた。
「さあ。でも可能性としてはありますわね」
お茶受けを出してきた卯ノ花は面白そうに参加し、ひところよりも体調が良くなっていることを話した。
の体質は知る者は知っているが知らない者は知らない。皆、話を合わせるように適当に相槌を打ち返した。
まだまだ本調子ではありませんが、と付け加えながら卯ノ花は茶菓子を配り終わる。
朽木は甘いものが嫌なのか、話題が嫌なのか、どちらともつきかねる表情をする。
卯ノ花は、朽木が書状を破る姿を想像して、目撃したかったわ、と思いを馳せながら席につく。

「現時点の力が副隊長級としても、その他もろもろ未知数の能力が魅力なんだよなあ」
浮竹は、当然のように自分の茶菓子を日番谷にあげながら言う。
「けどなあ。もうすっかり朽木のって定着しちゃっているしなあ」
残念そうな浮竹に、京楽は打ち明ける。
「んまあ、うちんところは華がいるからねえ。でもその七緒ちゃんがぜひとも欲しいって」
そういわれると欲しくなるじゃない、と勝手なことをほざいた。
七緒の立ち位置との立ち位置はとても似通っている。京楽が二人も補佐をつけたなら、それは贅沢というものだ。
「性格から申しますと、三番隊が良さそうではないでしょうか」
卯ノ花はすでに何か想定しているように言い、日番谷は浮竹に押し付けられた茶菓子をどうすべきか迷いながら、それに手をつけた。 三番隊は、市丸ギンのいた隊である。
「気分屋なとこだけだろ」
かじってみると、案外美味しい。
浮竹は長い白髪を振り乱して憤慨した。
「あのようなところに入れるくらいなら、私が貰い受けますよ」
まあまあ、と京楽は諦め諭すように言う。
「浮竹は朽木の妹飼ってるじゃないか。手一杯じゃあないの」
たしかに席官でもない有望株を浮竹はすでに手に入れている。
四方から突き刺さるような視線を感じて、浮竹は仕方なしに言う。
「ならもう、空席は隊長格しかないではないか」

浮竹は、朽木の秘書を秘書という枠から外して、副隊長席に入れるのがベストだと思っていた。
空席はいまのところ志波海燕の消えたひとつしかない。だから自分が預かろうと率先して思ったわけだが、よこしまな感情がないわけではなかった。
朽木の妹ルキアを預かっているため、これを育てるためにもルキアが尊敬している朽木の秘書が欲しい。なおかつ二人がいれば、十三番隊は安泰だ、とか思っていたりした。
怪しげに髪を振る浮竹に、日番谷は言う。
「朽木の、ってそういうの嫌がりそうじゃねえ?」
「そう、でしょうねえ」
当人の面倒くさがりを見越して、卯ノ花は日番谷の意見に賛同した。
「じゃが、謀反のせいで空席が目立ちすぎる。人手不足の今、適任者は迷わず使う。そうではないかの」
山本元柳斎は総大将らしく、らしいことを言ったわけだが、単なる一般論なわけで。

「適任とは言えないと思いますが」
卯の花は華麗に受け流した。
それをじっと見ていた狛村は言う。
「私は総大将に賛成する」
「狛村は言わなくてもわかる。いつもそれだし」
狛村は恩師総大将の決定がすべてだった。
「私は興味ないんだがね!」
涅は、早く終わって欲しいようだった。帰ってやりたいことがあるらしい。
そわそわして落ち着きがない。
実際は、話の流れが自分の隊に及ばないかと、ビクビクしていた。
いつ、身内を同じ隊に入れることの問題性に触れるかわからなった。
そうなれば、身代わり、いや娘を副隊長に持つ涅にとっては、もはや他人事ではない。
「おっ、まぢ?ライバルが減ったみたいだ。やったよ七緒ちゃん」
京楽は単純に倍率が減ったと喜ぶ。一時期、涅がに興味を示したこともある。
一口で菓子を飲み込んだ更木は、味わいを邪魔されたように不機嫌になった。
「うっせえなあ」
「じゃかあしい。若造どもがピヨピヨと」
山本元柳斎は、らしく、あろうとする。
「それ今、俺が言ったんだがよ」
「わしが四十六室の決定権を持っとること、忘れてはいかん」
「あ〜あ。また権力ふりかざしはじめたよ。やだね、このジジイは」
京楽はもう慣れっこだったし嫌でも慣れるが、山本元柳斎が決定権を持ち出すと勝手に無理難題を押し付けることが多々あるので、それを危惧した。
「私は反対ですわ。長い間の平隊員生活ですもの。大抜擢すぎます」
卯ノ花の忠告に、京楽はうんうんと頷く。
京楽は、朽木のを上位席官にするつもりはなかったし、どこか適当にさりげなく入れておけば、七緒ちゃんも喜ぶし、本人も動きやすいだろうと決め込んでいた。

朽木は、いかなることがあろうと絶対渡すつもりはなく、それは自然と態度に出ていた。
「通例、隊長就任には複数の隊長による推薦が必要だが、前提として本人の意志と、所属する隊隊長の承諾があってこそのもの。ゆえにこの議題、受け入れがたい」
話すだけ無駄だという姿勢を貫く朽木に、京楽は茶々を入れる。
「そんなこといって〜、もてあましてるんと違うかい」
扱いきれるとは思えないが、と暗黙のうちに京楽は目で訴える。
朽木は愚問な問いに、ふ、と軽く口端をあげて笑った。
本人が希望しても譲らない、と朽木白哉は決めている。
「余裕の笑みってやつだな」
クールだなあ、と京楽は続ける。
「知らないぜ。かましてっと、浮竹にまたもってかれちまうんじゃないかい」
浮竹だろうが京楽だろうが、朽木にとっては同じであって、手放すつもりは毛頭ない。
ただひとつ懸念をあげるとすれば本人の希望だろう。手が回るまえに、言い含めておくか、と朽木は思った。
「ぜひともとおっしゃるならば、我が隊よりは副隊長を推しますが」
クスリ、と卯の花は微笑した。
「身代わりを差し出しましたわね」
「あれは駄目だろう。腰が低すぎる」
話にならん、と浮竹は手を振ってつっぱねた。
京楽は男のことを考えるのは好きじゃないと冴えなく言う。

「ん〜、ちゃんも好きだけど、乱菊ちゃんも捨てがたいんだよねえ」
「松本は駄目だ」
日番谷の即答に、京楽は妄想をかき消された。
「つまんないじゃないの〜」
「あんたは女が好きなだけだろ」
危険だ危険、と日番谷はうるさいハエを追い払うように言う。
「年寄りはもっと大切にしないとだめじゃな〜い」
「おいぼれとはわしのことかの」
「言ってないじゃない、山じい」
狗村は逸れかかる会話を、真面目に促す。
「市丸三番隊、藍染五番隊、東仙九番隊、の残り物と、問題の朽木のを加えて2隊に分けるなどは」
・・・残り物。謀反の直接ダメージを受けた者らをそう呼んだ狗村。
簡単な表現方法ではあるが。
「さらりとさらにひどいねえ」
狗村の案は、一見これはと思わせるが、現実的でなかった。
残り物を集めても結局は隊長を誰にするかで揉める。
業をにやした山本元柳斎は、ついに終止符を打つ。
「保留。よって仕舞いじゃ、仕舞いっ!」

ひとまずこれで、の移動の件はしばし沈静化の運びとなった。
ひといきついて、隊舎に戻ると、は歌いだした。
 白神さんからお手紙ついた
 黒神さんたら読まずに食べた
 仕方がないのでお手紙書いた
 さっきの手紙のご用事なあに
「黒神さんも白神さんの手紙を読まずに食べるのだから、知らぬままで良いことなのだ」










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