白の死神


26




恋次は浦原から、が先天性の持病を持っていることを聞かされていた。
それは現世との相性がとても悪く、普通の義骸にも入れず、長期間過ごせば死を招く。
ただし、特製ぬいぐるみの中にいる間は特別何ら問題はなく、ソウルソサエティと同じように暮らせるらしい。
脂汗を浮かべるを見て、これまでソウルソサエティにいてさえ体調を悪くすることがあったのを思い出し、それ以上に悪いとなるとと恋次は深刻に考え、なぜ朽木隊長がを現世に降ろしたがらないのかが理解できた。
が黒崎によって無事に地面に降ろされ、恋次はほっとしたのも束の間、間に合え、と念じてにとって必要なものを拾う。
!受け取れ!」
恋次は、やや強めに胸を叩くの方角に、命綱となるぬいぐるみを乱暴に放り投げた。
「どこ投げてんだ」
気負いすぎか、もともとノーコンなのか。
それを黒崎が受け取って、喉から音を出して深呼吸するに手渡すと、のどかな空上に変化が起きる。
上を見上げた。
「来る」
邪気を含んだ霊気の塊が、3体。
「任せろ」
と黒崎は言った。
はぬいぐるみを掴んだまま駆け出して、恋次が呼び止めた瞬間に瞬間的に屋上へと飛び上がった。
「休んでろ、おめーは!」
恋次は叫んだが、どうせ遠くて聞こえない。
が飛んだ元いた屋上には、茶渡、井上、それに石田がいる。そんだけメンツがあれば、なんとかなるだろうと黒崎は踏んだ。
黒崎は残魄刀を抜いて聞いた。
「おい。ここでやんのか」
「に決まってんだろっ。は〜ん、まさかビビッてんのか」
「じゃねえっ!やるっきゃねえだろ。けど、こんな人数いるところでやろうってんだ、責任持てよ」
「・・お、おう。・・・つうか待てよ、遅いな」
「んだよ。びびってんのはおまえじゃねーか」
「あのでかさに気づけ、アホ。上等上等。こっちから迎え撃ってやるぜ」
大虚が3体と知った黒崎は、冷や汗を流す。
早いとこ倒さねえ、と皆が危ない。新参の体調の悪い死神や茶渡に対応できるとは思えなかった。しかも石田は霊力が戻っていない。
「くそっ」
まじでやべえ、と黒崎は焦る。
必ず守るとそう誓ったんだ――と、強い想いに突き動かされるように校庭を走り出した。
「卍、解っ!」




は片膝をつき、肩で息をしていた。
ぬいぐるみに入る集中力が足りない。
ちゃん、大丈夫っ!?」
井上がかけつけるが、不安定に纏うオーラの刺激に弾かれるように吹き飛ぶ。
「きゃっ」
茶渡が井上をキャッチして、は深呼吸を繰り返し、溜息をつくように重い腰を上げて立ち上がる。
「あっ、あれはっ」
空を飛び、ぐんぐん近づいてくる虚は大虚で、
「戦いたい人、手あげて」
は場違いにも軽く言う。
きょとんとするメンバーに対し、はもう一度深く息を吸って、持っていたぬいぐるみを石田に渡した。
「預かってて。今、入れないから」
石田は両手に受け持って尋ねた。
「倒す方法があるのか」
「一応、死神だからね」
は困ったように言って、目前に迫る大虚を見やった。
「茶渡くんっ!」
井上は叫び、は床を蹴る。
ずん、という音が響き、大虚とがぶつかりあって、弾け合う。
は床に膝を擦りながら、飛ばされるのを堪えた。
同じように大虚が体勢を整え、その攻撃対象を目視した
「壁際に。飛ばされないで」
と指示を出し、目をつぶって右手の二本の指を額にあてた。
「・・する獣の骨、尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪」
ゆっくりとの瞳が開くに従って、霊圧の開放量がじわじわ高まってくる。
「動けば風、止まれば空、槍打つ音色が虚城に満ちる」
暴風に似たそれを間近で受けた三人は、両腕で顔を隠すようにして、飛ばされるなと言われた意味を理解した。
「きゃあっ」
「井上っ」
「井上さんっ」
どこかに捕まっていなければ確実に飛ばされていた。
が踏み込んで蹴った床は、塗装が剥げ崩れていた。
風がふわりと穏やかになって、が空中に舞い上がったのだと知る。
「破道の六十三・・・雷吼炮!」
まぶしさに目がくらむ。

「ぬいぐるみ、ありがと」
石田は聞き覚えのある声に緊張を解き、うっすらと目を開けて黒い衣装を認識した瞬間、ぬいぐるみがぽとりと落ちた。
ぬいぐるみは軽く咳をしながら、もぞもぞと石田の足を這い上がり、腹のところにやってくると暖まるように丸まった。
弱っていた女の死神姿と大虚は消えていた。



髪型がバサついた人間三人組を見て、恋次は刀を仕舞い、黒崎のいる方角を見て、虚の気配が消えたことを確認する。
「倒したみたいだな」
「ん・・ああ、さんが・・」
は丸くなりながら、ときおりピクリと痙攣したように動く。
それを抱いていた石田は問う。
「どうすればいいんだ?」
「や・・力使いすぎた・・・だけ?か?」
あまり自信がなさそうな恋次の答えだ。
「わ、私、やってみる」
井上は治療を申し出て、石田はを床に置いた。
夕焼け色の光には包まれる。

「何かあったのか」
と出足の遅い黒崎に
「あったじゃねえよ!」
と恋次は八つ当たりして、鳴り出した自分の伝令神機に体を強張らせる。
「び、びっくりさせんなよ・・」
恋次がそれに出ると、二度驚く。通話相手は白哉だった。
「く、朽木隊長!ちょいどいいタイミングっす!」
「何か・・あったそうだな」
「あ、いや・・」
恋次は口をパクパク開閉する。いいタイミングなのか悪いタイミングなのか。とにかく、マズイ。
「無駄な力を使わせるなと言い置いたはずだが」
「あ・・いや・・はい・・」
は」
「え・・と、ちょっと電話に出られないといいますか」
「・・・・。何をしている」
「う・・治療中・・」
「怪我を?」
「あ、いや。それらしいものは見当たらないというか・・、見えないというか・・。ちょっと待ってください」
恋次は受話口を塞ぐ。
「オイ。、どっか怪我してたりするか?」
小声で言い、石田と茶渡は顔を見合わせる。見たやついないのかよ、と呆れる恋次。
ふとは目を開き、弾かれるように飛び起きて、ごほごほと詰まるような咳をした。
「きゃあっ、さんっ!どうしてっ!?」
「ばっ、バカ、静かにしろっ」
「止まらないのっ!血が混じってて!」
急を知らせる井上の声を聞いた白哉は、冷静に言った。
「吐血しているようなら、そのまま吐かせれば楽になる。落ち着いたらすぐに連れ戻せ。期限は今日中だ」
ぶちんっ、と切れて、恋次は真っ青だった。
「ああ〜っ」
戻ったら一体どうなるのかと、恋次は右往左往する。
責任をとらされるのは間違いない。
「そんなことよりだ。吐け、とりあえず吐け!」
恋次は血迷い気味に言い、これまで見てきた朽木隊長の対処を思い返し、ぬいぐるみの背中を叩いた。

「叩けとは言っとらんじゃろう」
今度は、夜一が現れて、呆れたように言った。
「夜一さんっ」
黒崎は、神出鬼没なその人の登場に毎回驚く。
「治療は無駄じゃよ。放っときゃ落ち着く。それよりまったく危ないやつじゃのう。制限がとれかかっとる。とれたら完全にやばかったぞ、おんし」
は咳き込み疲れて、床にへばった。
「夜一さん、何か知ってるのか?」
黒崎は聞いて、
「何かとか何じゃ」
そう返されて言葉に詰まった。
「だいたいあの程度の敵でここまでになるとは、、本当に現世に向いとらんな」
「夜一さん・・、うるさいよ」
はようやく、吐くものではなくて声を出せた。
「だいたい呼び寄せたのも、のせいじゃろう。起きたならさっさと結界を解かんか」
「・・・もうちょっと待って・・・」
「早うしろ。上にも知られるぞ」
黒崎はもう一度疑問を口にする。
「呼んだって?結界って?」
「鬼道の使えん奴は知らんでいい」
夜一はそう言って、そのあと恋次が、げ、と呟く。
が手を叩いて、床に置く。そしてまた寝転んだ。
「解いたよ、もういいでしょ・・」
校舎全体を覆う薄い膜が、手を叩いたと同時に霧散したのを恋次は目撃した。
呼び寄せたのがだというのが本当なら、恋次のに対する攻撃が引き金となったのは間違いない。
しかも校舎そのものを覆うなんていう芸当をやりとげ外界の影響を遮るなんて、そりゃ大量の力を使い果たすはずだと恋次は思う。
その上さらに、残魄刀無しで大虚を倒す。
まじで、本当に自分の部下なのか、と思う恋次だった。










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