夜の出来事



しくしくしく・・・・

「なんなんだ。」
「だってぇ〜・・・・。」
「だから、なんなんだ。」

この会話は、国光の部屋で、繰り返されていた。

「だって、みんな、酷いんだもんさぁっ!」
「・・・そのことか。まだ根に持ってるのか?」

そのこと、というのは、珈琲代でお金を払わされたときのことだ。
ポケットマネーが消えた、と嘆いている。

「身から出た錆だろう。」
手塚はいつものように、ため息をついている。

「だって、お買い物しようと思ってたのにぃ。」
だってだってだって、と覚えたばかりの口語を猿の一つ覚えで連呼するに、少々不機嫌になりかけた手塚国光であるが、ふと、会話の中に、不思議な言葉が混ざっているのに気付いた。
それは、お買い物、という言葉である。
「珍しいな。何を買おうとしてたんだ?」
は、物をねだるといったことが極めて少ない。
は、手塚の問いにしばらく考えてから言った。
「ネグリージェィ。」
「なんだそれは・・・・。」
「ええっと・・・・・、パジャマdeオ・ジャ・マ、だったかな?」
「パジャマだ。・・・、まさかとは思うが、持ってないのか?」
何度かの寝巻き姿は、目撃している。
だから、それはありえない。
服で困っていることもなさそうだ。
母にはきちんと言っておいたしな。
「一応、おばさんから何個か貰ったけど。」
「足りないのか?」
は違う、と頭を振った。
「新しいのが欲しい。」
「贅沢は敵だぞ。」
「やっぱそうか・・・爺ちゃんもそう言ってたし、もうしばらく我慢するや。」
は、ないものはしょうがない、と開き直ったようだ。
「ジイちゃん。風呂出たかちょっと見てくる。」
そういって、は、国光の部屋を後にした。




は、ちょっと見に行っただけのはずなのだが、しばらく帰ってこなかった。
それは、ジイちゃんが、
「ふぃ〜、さっぱりしたのう。」
と、上機嫌で風呂から出てきたからである。
手塚家では、一番風呂は、ジイちゃんと決まっているのだ。
脱兎の勢いを以ちて、暝(めい)すべし。
二陣の湯は、それほどに幸福をもたらすものナリケリ。




「国みっつ〜。」
「語尾を延ばすな。」
振り向くと、風呂上りのがいて、長い髪を拭いている。
落ち着いた色合いの寝巻きに、真っ赤な顔をのせ、湯気が蒸気している。
誰から見ても、風呂から出たばかりのようだとわかる。
「国光、頭拭いて〜。」
「ドライヤーを使ったらどうだ?湯冷めするんじゃないか?」
「だって、ドライヤー嫌いなんだもん。髪、焦げて。息、できないし。」
は、手塚の元に、ちょこんと座った。
なんで俺が、と言わないところが、国光の優しさかもしれない。
「だいぶ湿ってるな。ちゃんと拭いたのか?」
国光は、渡された乾いたタオルを使っての頭を柔らかくこする。
「腕が疲れちゃって。」
「俺はどうなる。」
「国光はいいんだよ。鍛えてるんだから。」
国光は、渋々、の髪を拭く。
は手や足まで、真っ赤に染まっていた。




の髪から、洗いたての香りが、優しく香る。
悪くない香りだ。
普段は気にも留めないことだが、俺も同じ香りをさせているのだろうか。
同じものを使っている、と思う。
風呂場には一種類しか置かれていない。
「なにか、匂うな。」
ふと、かすかだが、慣れない匂いに気が付いた国光は、手を止めた。
は、何の事を言われているのか知っていたようで、弱弱しく答える。
「タンスゴツン、か、無臭ダの匂い・・・。」
ああ・・・、それか、と国光は、一人思う。
タンスに仕舞って、防腐剤の匂いが、移ってしまったのだろう。
「テレビの見すぎだ。」
とかいいながら、国光だって、ちゃんと見ている。
がテレビを見てはしゃぐので、それでつい反応してしまうのだ。
きっと通販には弱い性質だろう。
俺もだが。
特に、深夜帯に放送しているテレコンに弱い。
たまたま遅くまで起きていたときに、アレを見ると、魅入ってしまう。
元々ニュースしか見なかった俺には、が来てからの最大の変化であった。
というより、見ていたが説明しだして、納得してしまうだけなのだが。
それも単なる言い訳にすぎないな。
今までは考えたこともなかったが、どうも俺は影響を受けやすいらしい。
「こら。頭を動かすな。拭けないだろうが。」
そうして再び、国光は手を動かした。




「ほら、終わったぞ。」
は、手触りを確かめた。
「おおおー。ふかふかー。サンキュー。」
は立ち上がると、すっきりしたように肩を回した。
それから柔軟運動をしはじめる。
国光は、を見て、妙なことに気が付いた。
どうもバランスが悪いような気がする。
ヨレヨレしている?
不思議そうな視線の国光に、は答える。
「ほら、やっぱり変でしょう?・・・ウエストなんかガパガパ。両手入っちゃうし。」
は腹からなにか取り出すと、ズボンをビヨビヨと伸ばした。
「ゴムが伸びてるみたいだな。入れ替えたらどうだ。」
「そうするー。」
はウエストの余りを絞って、腹に入れると、洗濯バサミでそれを止めた。
「洗濯バサミ・・・?」
「応急処置。」
「ピンかなにかで留めたらどうだ?」
「刺さるじゃんっ。」
寝返りを打った時に、ピンが外れてしまうかもしれない。
「それもそうだな・・・。だが、なんでそんなに大きいんだ?」
「国光のお古、結構デカイんだよ。」
「っ!俺のを着てたのか?」
「なんかボヤいてたよ。おばさまが。大きくなりすぎだって。」
「ああ・・・。いきなり背が伸びたからな。」
サイズが大きくなって、新しいのを買い、さらに大きくなって、新しいのを買い、
短い期間しか使用しなかった真新しい洋服が幾つかあった。
「これ以上大きくなるなら、爺ちゃんみたいに、毎日着物着てくれないかな、って言ってた。」
「さすがにそれは無理だろう。」
「だよねえ。こっち来て驚いたけど、着物着てる人めったにいないもんね。」
「そうかもな。」
「それはそうと、手塚家って服のセンスがなかなかいいね。」
「そうか?」
「いろんな洋服、ダンボールごと貰ったんだけどさ、あれって自分で選んだの?」
「・・・・・・・・。」
手塚は脳を素早く働かせた。
「・・・どしたの?」
いつもが普段着ている洋服
心当たりがある。
それもそのはず、
「おまえ、俺の小学校の時の服着てるのか!?」









あとがき

ミニマム手塚の服、着たいですねぇ・・・
大きい版でもいいケド(笑)


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