地震・雷・火事・親父



「おばちゃん!」「メロン!」「ヤキソバ!」「カレー!」
という声がひっきりなしに飛び交っているのは、中学全校生徒の半数が群がる購買である

授業のチャイムが終わると同時に走り出す人がいるのを何度もみかけたことがある
はじめはそれがなぜか分からなかった。けれど、ようやく理解する時がきた
持たされたはずのお弁当を忘れたばかりに、初めて、購買に行くのである
「あれっ?」
は鞄を漁りながら、素っ頓狂な声をあげる。
それを見た不二が、優しく声をかける。
、どうしたの?」
「あれれ〜・・・弁当がない・・・。」
どどど、どうしよう、と慌てるを不二は落ち着かせる。
「購買行って、買ってきなよ。待ってるから。」
どうせだから、昼抜きにしようかとも考えたのだが、手塚の祖父の剣幕を思うとそれもできず、は素直に周助の意見を取り入れることにした



通りすがりに桃城一年坊主に会った
パンを大量に抱え込んでいる
スキップしている桃ちゃんの両腕から、一番上になったメロンパンが飛び跳ねる。
「すご。パシられてんの?」
「違いますよ。これ俺のっス。」
「じゃ、それ全部一人で食べるの?」
「もちろんッスよ。」
この量を胃に収めるのかと思うと、は一気に胃がもたれ、胸糞悪くなった。
「もしかして病気?ほら、食べ過ぎ症候群とか?」
「過食症ですか?違いますよ〜。俺、沢山食べてでかくなるんス。」
「お腹こわすなよ〜。」
「あっ、先輩、急いだほうがいいっスよ。」
「桃ちゃんみたいに買占めされなきゃいいけど・・・」
そんな気持ちで到着した購買だが、既に品物はもう売り切れだった
桃ちゃんの助言の意味を理解した
今日の昼はどうしようか、足止めされたから、と桃ちゃんにせびってやろうか
素直に渡し、露ほどにも嫌がらない桃ちゃんを想像して、面白くないので却下することにした
この世には便利なコンビニエンスストアがあるのを、ふと思い出した

そうと決まれば、行動あるのみだ
手持ちの財布がポケットにあるのを確認して、下駄箱で靴を履き替え校門を出る
コンビニに行って、めぼしい物を漁る。そして買って帰る
ビニール袋を片手に持って、下駄箱で靴を履き替えていると、先生に呼び止められた
「こら、。」
鬼のように立ちふさがっているのは、竜崎先生である
ズズーン、といった表現が実によくお似合いになられる(舌かみそう・・・)
そのまま職員室へ直行だ
閻魔様に首根っこひっ捕らえられて、連行された
「まったくおまえは・・・・。」
国光に似たため息を漏らしながら、お説教が始まった
学校の外に出るのは、ルール違反だという
「えっ、ダメなの?」
はおめめパチクリしながら、閻魔様を見つめる。
「まったくおまえは・・・・・。学校は、生徒を預かっているというのに、休み時間に学校の外に居て、なにかあったらどうするんだい。」
これでは両親は安心して任せることができないではないか、という論理だそうだ
たしかに、いえてる
少しは、悪いような気もしたが、背に腹は返られない
「だって、コンビニ、あんなに近いじゃん。これって生徒が使うだろうと思って建ったんじゃないの?」
コンビニのある位置は、学校から目と鼻の先だ
買ってくれといわんばかりの主張をしている建物である
「・・・・知らんよ。それよりあんなに堂々と出て行ってどうする。誰も不審がらんかったぞ。少しはコソコソするとかしたらどうなんだい。可愛げのない・・・。」
校舎を出るところから見ていたらしい
呆れた顔をしているスミレちゃんはお説教をまた続けた
ものの5分だというのに、もう昼自体が終わってしまったかのような長さを感じる
お腹がすいてきたのを実感したのか、胃がクルルと鳴る
「・・・放課後は罰掃除じゃな。ホレ。早く食ってこい。」
やっと開放されて教室に戻ると、もう昼タイムが残り半分にさしかかっていた

周助は本を読んでいる。こちらに気付くと、パタンと閉じた。
、遅かったね。あれ?コンビニ行ってきたの?」
「あ、うん。ごめん、遅くなって。購買売り切れてた。」
手をつかずの周助のお弁当を見て、心底謝った
「先に食べててよかったのに。」
「待ってるって言ったしね。」
言い出だしたことはテコでもひかない周助のことだ
おそらく英二の声に耳もかさなかっただろう
頑固な周助の姿を思い浮かべると、少し気分が晴れた
「誰かに見つかっちゃったの?」
「あ〜、スミレちゃんに。も〜長いのなんのって。」
「お疲れ様。今度コンビニ行くときは、僕に言って。抜け道教えてあげるから。」
とても楽しそうな周助だ
近いうちに、周助がわざとお弁当を忘れるような気がした
当然のごとく引っ張って行かれそうな気がするのです




待望の(?)、罰掃除の時間です
校門の辺りから校舎までを掃いてこいと、箒と塵取りを持たされました
「これが箒?」
魔女は箒に乗って、空を飛ぶとはいうけれど、まさに魔女が使う箒である
アニメやイラストでしか見たことがない
初めて目の当たりにする箒に、は感動した
「竹箒じゃ。これで葉っぱを集めるんじゃ。」
「えっ、これ竹でできてるの?あのしなる木でしょ?風流だねぇ〜。」
日本文化って凄い、と実感したである
竹っていうのは、しなるように揺れる柔らかい木で有名だ
だけど竹ってどこに生えてるんだろうか
ついぞお目にかかったことがない
「竹箒なんだから竹でできてるんじゃなのかねぇ。よく知らんが、早くやらんか。」
「はいは〜い。」

ポツ・・・、腕に冷たいものを感じる
雨だ・・・



はまだ地震に慣れていない
日本に来てから、はじめて地震を体験した
というか、地震が怖い
こう何度もあるのはおかしいと思うのだけど、国光は地震地帯だから我慢しろという
ついでにいうならお化けも怖い
だけど本国のお化けをあまり怖いとは思わなかった
っていうのは、セクシーなネグリジェを着てたり、スケスケの中身はボインだったり
意外に笑えるのだ
ゾンビとか吸血鬼はもはや小説や映画で語られすぎて、新鮮味がない
ジェイソンが本当にいたならやや怖いとは思っても、あの仮面は笑えてしまう
とくに、誰もが思っていることだが、スクリームはなぜにムンクの叫びなのだろう
13日の金曜日なんて、今度は近未来で大暴れしちゃったし、もはや次元が違うところに逝ってしまった
明日はナタでスイカ割り、ってフレーズ、ワケわかんないよね
日本のお化けは武者鎧をガチャガチャ言わせて、迫りくる恐怖
切腹なんていう武士の魂とかいう儀式もあるし
しかも立会人とかいうのがいて、介錯人が無情にも首切っちゃうし。止めるとかしろって
日常茶飯事でそんなことしてれば、化けて出たくもなるわ
極めつけはあの、貞子。怖ぇぇ。怖すぎるっ。これには耐えられない
日本のホラー映画は、怖すぎた
ハリウッドはお城が定番で、超遠いところからニョキっとでてくる。そんでもって必ず格闘。
ギャアギャアうるさいんだこれが。悲鳴ってやつね
それに、一度登場した者のどれかが犯人だから、それほど怖いとは感じない
しかし日本のやつは、なかなか姿を見せず、気配だけ漂わせる
とても不気味だ。どこにいるのかわかんないし。心霊写真みたいでリアルなの
それからいきなり至近距離で登場してくれちゃって、心臓が止まるかと思う
サブリミナル効果ってヤツ?
真っ青になった私は失神直前
介抱するはめになった国光は、その日一晩一緒にいてくれた
電気を消せない私に、なんどため息をついたことか
夜中に浮かぶ、青白い国光の顔も、怖さに拍車をかけたんだけどな
隣にいてくれたのは、ありがたい
存在を感じるだけで安心する




地震が怖くて、お化けも怖い。ならば雷だって怖くなる
よく今まで普通に暮らしてこれたもんだ、と不思議なくらいだ
感化されすぎたのだろうか
地震、雷、火事、親父。言い得て妙だ
その言葉の普及には、たいして時間がかからなかったろう
日本に来て、ホームシックになったんだろうか
情けないほど怖がりになったと思う
それとも敏感になったというか
誰かが一緒にいれば、さほど感じないのに
今だってそう。なんでもない振りもできる
不二相手に
「この雨だから部活中止になったよ。」
「そっか〜、うちも罰掃除、中止になったとこ。」
「派手に雷鳴ってるね。」
「ね〜・・・。」
。傘は?」
「ない。」
「それでここに立ってたの?」
「うん。誰か来るの待ってた。」
「送ってくよ。」
「そう言ってくれるのを待ってたんだ。」
フフと笑う周助と、エヘと笑う




近くに誰もいないと孤独を感じてしまう
「さんきゅ。ここでいいよ。」
「あれ?ここ?手塚の家に用でもあったの?」
「ん、ああ。ここに住んでるから。」
目を丸くした周助は、
「その話・・・詳しく聞かせてもらうよ。」
と、ド迫力で迫る
「じゃ、じゃあ・・・・よ、寄ってく?」
いけね・・・まだ話してないんだった
どうやって説明しようかとは思案にくれた
周助はうっすらと目を開けた
怒ってるぞ、怒られるぞ〜、はこれから確実に起こる事態に覚悟を決めた




誰もまだ帰っておらず、ただいま、という声が、し〜んと響いた
おじゃまします、という淡白な言葉があとに続く
周助を部屋に通すと、周助は見渡しながら意外そうに言った
の部屋?・・・案外きれいだね。・・・さ、そこ座って。」
取り仕切る周助は、まだ、わずかながら開眼している
「お、お茶いれ――」
話を逸らしたくてたまらないに、周助は遮るようにいらないと言う
行使力鋭い周助の目は、ギラついている
早く言えば命は取らないから、と目の前に刃を突き立てられているかのようだ
こんなときは、反抗してはいけない
大人しくは周助に向かい合う
しどろもどろになりながら説明する
まるで、私は、お代官様に詰問されている、悪人である
「どうしてそんな大事なこと黙ってたの?」
「どうしてって・・・・、なんとなく。言われたって困るかな、と思って。」
「僕はそんなに信頼無い?」
「え・・・?」
打って変わって、悲しそうな目をする周助に戸惑った
「手塚は知ってるのに、僕は知らなかった。それが何よりの証拠だよ。」
「ち、違うよ。ただタイミング逃しちゃっただけで。」
「ねぇ、。・・・こんなことでもなくちゃ言ってくれなかったよね?」
「言わなくていいならいいかな〜・・・・と。」
チラと周助を見ると、周助の口元は一直線に結ばれていて、不機嫌そうであることが伺えた。
ごめんなさい、とは素直に謝った
「僕はのこと知りたいと思ってるし、――――――」
ピカッ!!ガラゴロガラッ――――――--!!
守ってあげたいと思ってる―――という言葉は、けたたましい雷の音によって遮られた
「・・ナニ?」
聞こえない
スラスラと出てきてしまった言葉に驚いたのは周助である
「そんなのは置いといて!だいたいはね・・・・」
自分の言った言葉にいろんな意味が含まれているような気がして、赤くなりながら、少し怒気の孕んだ声で、お説教を再び開始する周助
雷の音で、心臓が止まったは、それどころではない
は一生懸命に怒ってくれる不二が嬉しかった
近くに不二がいてよかった・・・
ニヤケた顔をしていたのか、不二は「僕は怒ってないけど怒ってるんだからね!」と口走る
怒ってくれる人がいることに感謝すらした
私の周りってほんとお説教するの好きだよなぁ〜・・・とつくづく思ったである




すべてを話して納得してもらったころ、
、平気か。雷が――」
ドアノブが音をたてる
正座して向かい合ったと不二の二人の視線が手塚に集中する
「お邪魔してるよ。手塚。」
「国光おかえり〜。」
「不二、きてたのか。何をしてるんだ?」
「今ね〜、愛を語り合っていたところ。」
「・・・。手塚もこっちきて座りなよ。」
開眼して笑みを投げる周助に、は嫌な予感を隠せない
さすがに三度目はナシだろう、とは咄嗟に席を立つ
「国光、すんごい濡れてる、ダメじゃん、風邪ひくよ〜。ほ〜らほ〜ら。」
水を滴らせる国光を引っ張って下へ連れて行く
「周助、下でお茶飲も〜。」
「そうだね。」
国光の背中を押して奥に消えていった二人は、一人はぞうきん、一人はタオルで制服を拭いている
は、廊下に落ちた水滴を雑巾で拭いていき、二階に消えた
台所に入った手塚は、タオルを肩に乗せ、紅茶用具を取り出す
「ダージリンでいいか?」
とカラカラと振って、缶の中身を確かめながらいった
「うん。」
「・・・・迷惑かけたな。」
「なにが?」
「あいつのことだから、ムリヤリ家に連れてこられたろう?」
?そんなことないよ。」
「・・・そうか。ならいいんだ。どうやら雷が怖いらしくてな。」
「・・・雷が?へぇ〜・・・可愛いとこあるんだね。元々そうだけど。あ、その弁当箱、の?」
「ん・・・ああ。だろうな。俺のはまだ鞄の中だ。早いな。いつも催促しないと出さないんだが。」
国光は、それを軽く持ち上げた
中身がまだ入っている
「昼、食べてないのか?」
「コンビニ行ったよ。」
「・・・そうか。」




その時、ドゴォーン、と大きな雷の音が割れるように鳴った




「今の・・・近かったね。」
窓の外を見た不二は、雷鳴が遠くなっていくのを聞くと、台所に目を移した。
手塚が弁当箱をシンクに放りなげるのを、不二は少し驚いたように見つめた。
手塚は台所を出ると、早足で階段の方へ向かい、上を見上げる。
あ・・・そうか。
理由に思い当たった不二は、席を立つと手塚の跡を追いかけ、二階へ登った。

二階の廊下の隅っこの方で、はうずくまっていた。
。」
は懸命に、両手で耳を塞いでいる。
手塚は膝をつくと、の手をとる。
、もう大丈夫だ。」
は、しっかりと閉じていた目をゆっくり開き、手塚の顔を見て安堵の息を漏らす。
「ほぅっ・・・・・。」

周助は、国光の背中越しから、を覗き込むように声をかけた。
「平気?。」
「・・・・ぁぁぁ・・・うん・・・ビックリした。」
立ち上がった国光に、手を借りて、は立ち上がる。
は、雷、苦手なんだね。」
「苦手だなんてもんじゃないよ〜・・・。」
は情けない声をだした。




稲光がして、は慌てて国光の袖をぎゅっと掴む。
雷鳴がとどろくと、は一瞬体が跳ねた。
そうしてから、は二度目の息をゆっくり吐く。
は国光の手と周助の手を引っ張りながら、強引に下の階に降りていく。
その手は少しだけ震えていた。

「あ〜・・・心臓に悪かった・・・。」
リビングにくると、は二人から手を離した。
は、椅子に座ると足を抱えた。
つられるように、周助も席に座る。

国光は台所に戻ると、紅茶の缶を開けた。

って、そんなにダメだったんだ。じゃあ、もしかして、今日の帰りも・・・。」
「うんうん。ビクビクしながら、誰か通りかかるの待ってた。」
「そうだったんだ・・・。」
「誰かと一緒なら平気なんだけどね。」
「帰りに会えてよかったよ。他に苦手なものは?」
「そうだなぁ・・・地震・雷・火事・親父。父さんより爺ちゃんの方が絶対こわいよ。」

クスっと周助が笑うと、ティーポットとカップを持った国光が向かい側に座った。
三つあるうち一つのカップの中には、半分ミルクが注がれている。

「あ、そうか。」
と手塚の視線が、周助に注がれる。
「ほら、手塚が帰ってきた時、ずいぶん慌ててたみたいだから。」
これを心配してたんだねと言う前に、手塚がそれぞれのカップに紅茶を注ぎながら答える。
「まあな。」
「いつもこうなの?」
「大抵そうだな。」
「・・・・・面目ないです。」
沈んだ様子のに、国光は穏やかに言う。
「気にするな。」
は、国光から差し出されたミルクティーを受け取って、口をつける。
ふんわりと甘いミルクティーは、はちみつ独特の風味をもって柔らかに美味しい。

もう一度、稲光と雷鳴が落ちてきたが、は落ち着いて紅茶を飲んでいる。
「明日晴れるかなぁ・・・。」
「う〜ん、どうかな。このまま一気に降ってしまえば、虹が見えるかもね。」
「だといいなぁ・・・。」
はカップを置くと、椅子の背にもたれるように、頭をのせた。







あとがき

目が悪くなった気がしたので、色変えました。
最近、意味のない会話が、無駄に多いような気がする (・・・元からか)
しかし、なんか、こう・・・、ツメが甘いよな気がします



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送