ゆうた 4



なんだか知らないが、コーチが連れてきた人は、えらく態度がデカかった

「まじで?こんなちっこいヤツ相手にてこずったん?」
「私じゃ体力持ちませんで。」
「あぁ・・・年には勝てねぇもんな。」

はこの男に早々と用件を言った
「乱打、お願いできますか?」
「JOP281位の俺に言ってんの?」
自分で言うな
っていうかJOPって何 (注:JOP=日本オフィシャルポイントランキング)
とにかく、三桁で喜べる思考回路は羨ましい

男は笑いながらコーチに言った
「いいやろ。雪辱戦してやんよ。」
コーチは慌てて返す
「本気にならないでくださいよっ。」
「わかーってるって。」
コーチはどこか不安そうな表情で、冷や汗を拭っていた




どこからでもかかってこい、という男に、は軽く挨拶をした
ゆるやかなカーブを描いてバウンドする
男はなんなくそれを返した
慣らしのラリーが幾度も続く
ウォーミングアップの途中で飽きがきたのか、男はいきなり力強く跳ね返した
は突然の男の行動に目を疑う
球が目の前に迫ってくる
体正面
は慌てて、それをブロックした

球は遠くに飛んでいった
球のはずむ音が、どんどん小さくなっていく
は男をきつく睨んだ
「なんやぁ?こんくらいで怒っとんの?」
はすっと無表情になった

とりあえずランカー(ランキング所持者)ならば、遠慮はいらないのだろうと思う
は一本一本をきっちりと丁寧に振り抜こうと思った

は、右手に力を込める
上体を大きく反らすと、サービス球は、ネットにひっかかった
力を入れすぎたか
切なそうにボールが転がる

「惜しいねぇ。あのまま入れば、ナイスやったろ。練習足りひんのやないか?」
男は上機嫌で、そう語る

は手首を緩め、指先に力をいれた
グリップのフィット感を確かめるように握り返す
空高くトスを上げて、腰からひねるように、ねじ伏せる
球は軌道に乗って、ラインに乗った

サービスエース

・・・のように見えたが、そうではなかったらしい。
この位置からは、はっきり見えないので、判断がつきにくい。
ボール一個分外れたかな。

もう一本
こんどこそサービスエース。
ライン上、内側を守った、はず。

しかし、男はそれを素直に受け入れない

「・・・惜しいなぁ。入っとらんわ。」
「オンラインじゃなかったですか?」
「俺が入ってないつったら、入ってないんだぜ。」
入ってないのか・・・。は少々がっくりきた。
は、男の動きを観察していて、ボールの行く末をはっきりと見ていないのだ。
・・・手応えあったんだけどな・・・。
・・・あとボール一個分くらいだろうか。
返事がないに、男は自慢気にニヤニヤと問い掛ける
見下ろすかのようだった。
「なんや?負け惜しみか?」
思考の邪魔をする男に、はプチキレた。
「・・・あの、突っ立ってないでそれくらい取ってもらえませんか?」
「なんやと。」
「私、ラリーしたい、って言いましたよね。だからラインにこだわらないでください。」
「ルールなんだぜ?」
「初心者ならラインに入らないことだってあるでしょう。」

どう見ても、初心者でない動きに、男はカチンと来たようだ
男はストレートできたりクロスしたり、とを端から端まで走らせた
届かないのを知ると、満足そうに笑みを浮かべた

・・・ラリーしたいって言ってるのに

は、ふぅ、と息をつくと、腰をかがめた
ラケットをなんども握りなおして、感触を確かめる
「おっ、今度は取れるってか?」
は体を揺らしてリズムを刻む
は次第に球に追いついてくる
そして、翻弄していたはずの男が、逆に翻弄されはじめる
二人共、肩を揺らせて走っている

はバックハンドで返すと、支えていた左手に、痛みが走った
「つぅっ。」
ラケットがブレて、ミートが外れる
球が甘くなって、高めに跳ねる
ラッキーチャンス、とばかりに男はすかさず体勢に入った
腕の力で、スマッシュを打ち返す
しかし、は前進していた
放たれたボールを拾うと、コートの前面に落とした

しかしそのボールは、シングルスのコートには入らず、アレーの中にふわりと落ちた
インではない
カランカランカラン・・・と乾いた音が響いた
はラケットを落としていた
右手ではスマッシュを支えきることができなかったのである
男も手がビリビリと痺れていた

・・・こんなもんかな
体が反応してしまったけれど、堪えきれなかった。
その事実は少々悔しいが、無理は無理だ。

「ちっ。やめたやめた。怪我人は大人しくしてろって。」
男は強がったが、これ以上相手をする自信がなくなっていた
この小さな娘っ子に、圧されかけている、と感じていた
も男の指示に素直に従う
右手が少し痺れている
それよりも、固定された左手がかなり痛い
痛みをぶり返してしまったようだ




さきほどまで様子を見ていたコーチが、電話をしながらこちらをチラと見たのに気付いた
はテーピングを外すと、開放感に酔う
静かな風が、熱を持った手首に優しい
コーチは受話器を置くと、こちらに駆け寄ってきた
「すまないね。練習にならなかっただろう?」
「いえ。充分、目的は達成できましたから。」
「ボールに慣れるということだけだったのにねぇ。すまなかったよ。大丈夫かい?」
「あ、大丈夫です。」
「少し腫れちゃったかな。湿布しておくかい?」
「平気です。」
「これに懲りずに、また、来てくれるかな?」
「次は割引してもらえますか?」
「あはは。こいつはやられた。いいよ。お嬢ちゃんならいつでも歓迎するよ。」
「ありがとうございます。」
「それに君に会わせたい人がいるんだ。」
「・・・・??」
「今日のような手加減をしない人じゃないよ。安心して。」
「いえ、充分手加減してもらいましたから。」
コーチは少し驚いた表情をすると、笑顔になった。

さん、惜しかったですね。」
「あ・・・裕太か。終わったの?」
「はい。あ、でもまだやっていきます。」
「ああ。そうだ、裕太。」
「何ですか?」
「周助には、私がここに来たこと、内緒にしといてね。」
「・・・・?・・・いいですよ。」
裕太は家に帰ると、のことを口外すまい、と懸命に努力した







あとがき

4部作のはずが・・・
結、じゃないじゃん(白旗降参)
これは転の続きだなぁ、っていうか無駄無駄もいいところで、無駄話オンリー。
面倒だからいっそこのまま続けたい(←直せよ)
今度こそ、今度こそっ(続で締めくくりたい)




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